4. 塗装の方法に起因する欠陥とその防止法

4. 塗装の方法に起因する欠陥とその防止法

(1)塗料の調合

 塗料には、1液型と多液型があります。

 1液型は塗料を開缶すれば使用できるタイプで、規定のうすめ液を用いて既定の希釈率の範囲内で希釈して塗装します。このタイプは希釈した後でも、十分に密閉しておけば、短期間なら使用することができます。

 多液型の代表は、使用時に主剤と硬化剤を規定割合混合してから使用する2液型塗料です。2液型塗料は、必ず既定の割合で主剤と硬化剤を混合して使用しますが、硬化剤の添加量が多すぎたり、少なすぎたりすると、本来の塗膜性能が発揮されないので注意が必要です。

 また、2液型塗料は、主剤と硬化剤を混合した後は、ポットライフ(可使時間)が決まっているので、決められた時間内に使い切らなければなりません。ポットライフが過ぎると、粘度が高くなったり、固化するものが多いですが、中には塗料状態の変化の少ないものもありますが、使用しない方がよいでしょう。

 

(2)塗装方法・工程

 塗装方法・工程による欠陥は、塗装工程の誤り、塗料の厚塗り、うすめ過ぎ、うすめ液の誤りなどの原因があります。

 塗装前に塗装仕様を確認することが重要で、塗装仕様に指示されたうすめ液、希釈率、塗付け量、塗り重ね乾燥時間などを守って正しく塗装することが、塗膜性能を十分に発揮させることに結びつきます。

 使用する塗料によって、最適な塗装方法が決められているので、条件を守って塗装しなければなりません。場合によっては、決められた塗装方法以外で塗装する必要性も出てきますが、この時は、試験塗装するなどして、適正に仕上がるかどうかを確認してから作業します。

3. 塗装用機工具・機械及び装置に関する欠陥

3. 塗装用機工具・機械及び装置に関する欠陥

 塗装用機械及び装置に起因する塗装上の欠陥として起きやすい条件は、塗装法の種類によって異なりますが、スプレー塗装を主に考え列挙すると次のようになります。

 ①スプレーの吐出量、スプレーパターンの調整が不十分なための膜厚ムラ、塗料の流れ、塗り残しを生じる。

 ②機械、装置の取扱いが不適正なための塗りムラ、ゆず肌(ガン肌)の発生。

 ③機械の手入れ、洗浄不十分で、ごみや塗料のかたまりを十分にろ過せずに塗装したための塗面のぶつやピンホールの発生。

 ④エアスプレーなどに使用されるコンプレッサーの空気源から発生するごみ、油などをドレンから十分に抜かないためのはじきやピンホールの発生。

 ⑤エアレススプレーはエアスプレーに比べ吐出量が多く調整できないし、パターン幅も変えられない。したがって、塗膜肌が粗く高級仕上げには向かない。

 ⑥機械と塗料がマッチせず、スプレー粒子が粗すぎたり、パターン粒子分布が悪いためのゆず肌、ピンホール、わきなどの発生。


 このように機械装置の取扱いが不十分なため、機械がスムーズに作動しなかったり、機械のための塗装の欠陥を作ることは比較的多いです。

 特に注意しなければならないのは、作業終了時の手入れと、作業開始時のフィルターの点検が重要です。いづれにしても、それぞれの塗装法によって、それに適した塗料の調合や機械の調整が必要であり、適正でなければ塗装の欠陥を作る原因になってしまいます。

2. 塗料に起因する欠陥

2. 塗料に起因する欠陥

 塗装前の塗料に生じる欠陥で、塗料製造から流通段階で発生する欠陥です。

 一般的には、沈殿、分離、皮張り、粘度変化、固化、ゲル化、ぶつ発生などがあります。

 これらの現象は、それぞれの塗料における性質、組成によって生じ方が異なっていますが、こうした状態の塗料は使用できない場合があり、主に、塗料メーカーの塗料品質保証上の問題であることが多いです。

 

~代表的な塗料に起因する欠陥について~

(1)粘度変化

 塗料が貯蔵中に樹脂自体、もしくは樹脂と活性な添加剤や顔料と反応して、時間の経過とともに塗料粘度が高くなったり低くなったりし、さらに進行してゲル化しこんにゃく状に塗料状態が変化してしまう現象があります。

  (a)ゲル化及びケーキング(固化)

   貯蔵中に塗料粘度が上昇し、攪拌してもうすめ液を加えても粘度が低下せずに、容器内でゼリー状に変化してしまう現象をゲル化といいます。ゲル化の原因は、樹脂の重合反応が進行したり、樹脂と顔料や添加剤の反応などによって生じることがあります。

   また、現場で塗料に異種の塗料や異物を混入したりして起きることもあります。この現象が進行して塗料がケーキ状に固化することをケーキングといいます。

 

(2)皮張り

 皮張りとは、貯蔵中の塗料容器の中で塗料表面に乾燥した皮を張る現象をいい、酸化重合形の塗料である油性ペイントや油ワニス、合成樹脂調合ペイントなどに発生しやすい欠陥です。

 発生する原因は、塗料表面で酸素と反応し、表面に酸化重合が生じ乾燥して皮を張るもので、容器の密閉が不十分だったり、容器内に塗料が少量しか入っていなかったりした場合に発生しやすいです。

 初期の皮張りであれば、丁寧に皮を除去すれば使用できます。

 

(3)沈殿

 塗料の貯蔵中に密度(比重)の高い顔料が、塗料の粘度で支えることができない場合など、顔料が容器の底に沈降する現象です。

 初期なら、攪拌すれば元に戻りますが、長い時間放置されると攪拌しても容易には戻りません。

 一般に顔料含有量の多いつや無し塗料や、密度の重い顔料を含有するさび止め塗料に発生しやすいです。

 沈殿を生じた塗料をそのまま使用すると、配合バランスが崩れた状態で、正常な塗膜に仕上がらないことが多いです。

 十分に攪拌して元に戻ったように見えても、顔料が凝集(ぶつ状)していることもあるので注意が必要です。この場合は使用してはいけません。

 

(4)ぶつ

 塗料中の顔料が凝集したり、樹脂などが反応してつぶ状の粗大粒子に成長する現象をぶつといいます。

 塗装すると、塗膜表面に細かい砂が付着したような状態になり、光沢低下など仕上り不良となります、

 着色顔料が凝集すると塗装した時に、塗面に糸を引いたような色の筋ができることもあります。

 ぶつは、攪拌しても容易に均一になりませんし、うすめ液で溶解することもできません。このため程度の軽いぶつなら、塗料をろ過などの方法で除去して使用しなければなりません。

 

(5)色分かれ

 容器を開缶したときに塗料中の顔料が分離して、塗料表面の色がまだらになったり、塗料表面と下層の色が違ったり、斑紋を生じる現象を色分かれといいます。

 この現象は、顔料の分散不良や再凝集によって生じますが、塗料を攪拌することによって容易に均一になる場合と、均一にならない場合があります。

 前者の場合は攪拌することで使用できますが、後者の場合は攪拌しても、塗装すると色むらを生じるため使用することができません。

1. 被塗物に起因する欠陥とその防止方法

1. 被塗物に起因する欠陥とその防止方法

(1) 新設塗装

 被塗物の素材(下地)の不良によって起きる欠陥は、吸収性の大きい素材、水分含水率の高い素材、アルカリの強い素材、表面強度が低く脆い素材、さびの残存、付着物などが原因となって塗膜に欠陥が生じます。

 例を挙げるとモルタルやコンクリートの養生が不十分で、アルカリが高く、含水率の多い面に塗装すると、変退色、エフロレッセンス、ふくれ、はがれなどの欠陥を生じることがあります。

 防止方法は、塗装前にモルタル、コンクリートの含水率やアルカリ度(pH値)を測定して塗装可否を判断します。一般的には、アルカリ度(pH値)9以下、含水率8%以下で塗装することがよいでしょう。

 また、内装用のケイ酸カルシウム板など比重が軽く脆い素材に、適正なシーラーを塗装しないと容易に剥離してしまいます。この場合は、ケイ酸カルシウム板の表層を固化する含浸タイプのシーラーがよいでしょう。

 鉄面、亜鉛メッキ面などは、表面処理(素地調整)が不十分だと、早期発錆や付着不良から塗膜剥離の原因になります。防止方法は、鉄面は脱脂や入念なさび落としを、亜鉛メッキ面は化学処理や入念な素地調整を行い、亜鉛メッキに適した下塗りを塗装することが必要です。

(2) 塗替え塗装

 塗替え塗装は、塗膜も被塗物も一定年数が経過しているので新設とは異なり、劣化部位や劣化程度が判定できる利点があります。

 一般的には建物の規模に関係なく、塗り替える建物の下地診断を行い、事前に劣化部位などを把握してから適切な塗装仕様を設計することになります。

 塗替え工事では躯体のひび割れや鉄筋の爆裂などの劣化も補修の対象になり、 十分に補修しないと建物の寿命に影響しますし、仕上り性も左右します。必ず適切な補修を行ってから塗装工事に入ります。

 既存塗膜は付着力が重要で、引張試験器などによる付着強度測定によりケレンの程度や範囲を決めることになります。塗替え塗装仕様にもよるが、一般的には「0.5N/(5kg/f)以下」の塗膜はケレン対象になります。

 付着力の低下した塗膜を残して塗装すると、塗膜剥離の原因になるので、十分な管理を行わなければなりません。

欠陥の種類と原因並びに防止方法

欠陥の種類と原因並びに防止方法

 塗装の欠陥を防止するには、その原因についてよく知ることが第一です。

 

 塗膜に現れる欠陥は、大別して次の6つの原因があります。

 

  1. 被塗物の素材の不良に起因するもの
  2. 塗料の選定誤りに起因するもの
  3. 塗料の欠陥に起因するもの
  4. 塗装工程の誤りに起因するもの
  5. 塗装機工具に起因するもの
  6. 塗装環境に原因が起因するもの

 これらの欠陥は、その原因が明確に分かれば、適正な防止方法によって、その欠陥を防ぐことができます。また、塗装不良による欠陥の修正は新しく塗装するよりも、手間がかかります。
 したがって、塗装前と塗装作業中、塗装作業後には十分に注意して欠陥防止に努めなければなりません。