1.塗料の乾燥・硬化
塗料は種々の下地に容易に均一に塗装するためには、一般には液体でなければなりませんが、塗装後固化して塗膜を形成する変化を乾燥・硬化といいます。
この乾燥・硬化は、揮発・融着などの物理変化と、酸化、調合などの化学変化によって生じるものと、その両方が同時に起きるものがあります。
この乾燥・硬化の過程は、塗装作業が終了して塗膜になる間は、作業者が管理していないことが多いですが、その反面、塗装の目的である保護や美装などを達成させる塗膜を作るために最も重要な工程です。各塗料の乾燥方法を十分理解して塗装作業を行わなければならず、乾燥・硬化も塗装のうちであると考えなければなりません。
2.塗料の乾燥・硬化の種類
塗料の乾燥・硬化の仕方は、塗料の樹脂(展色材)の種類によって異なり、一般に樹脂の種類が決定づけています。
硬化・乾燥の種類を分類すると、下記の表に示すように、多くの種類に分けられます。
乾燥の種類 | 乾燥の機構 | 塗料の例 | 乾燥時間(h) | |
揮発乾燥 | 塗膜中の溶剤や水分が蒸発後、 塗膜が硬化する。 |
セラックニス ラッカー アクリルラッカー 塩化ビニル樹脂塗料 |
1~2 | |
融着乾燥 | 溶剤や水分が蒸発すると、分散 していた樹脂粒子が接触・融着 して連続塗膜となる。 |
アクリルエマルション塗料 NAD(非水分散形)塗料 |
1~3 | |
融解冷却乾燥 | 加熱によって融解した塗膜が 冷却によって硬化する。 |
ホットメルト塗料 融着用トラフィックペイント |
20~30分 | |
(揮発)酸化乾燥 | 塗膜が空気の中の酸素を吸収して 酸化し、さらに重合を伴って硬化 する。 |
ボイル油・油性ペイント 合成樹脂調合ペイント 油ワニス・エナメル フェノール樹脂ワニス・エナメル アルキド樹脂ワニス・エナメル |
15~20 | |
重 合 乾 燥 |
加熱重合乾燥 | 加熱によって樹脂が重合して 硬化する。 |
熱硬化アミノアルキド樹脂塗料 熱硬化アクリル樹脂塗料 一般焼付塗料 工業用焼付塗料(粉体塗料・電着塗料) |
130~150℃ 30分 |
重合乾燥 | 触媒・硬化剤によって樹脂が重合 して硬化する。 |
ポリエステル樹脂塗料 酸硬化アミノアルキド樹脂塗料 |
0.5~1 | |
ポリウレタン樹脂塗料 エポキシ樹脂塗料 |
5~15 | |||
電子線重合乾燥 | 電子線を照射して、活性ラジカルを 生成させて重合・硬化する。 |
電子線照射塗料 | 1~2秒 | |
光重合乾燥 | 有効波長の紫外線の照射で重合・ 硬化する。 |
紫外線硬化塗料 | 数10秒~ 数分 |
3.塗料の乾燥・硬化における各種条件
塗料の乾燥・硬化は、温度・湿度に影響を受けます。
特に、自然乾燥形塗料の場合、乾燥条件を工場塗装のように一定に定め、管理することは困難ですので、乾燥条件に起因する事故の発生もあります。
塗装に好ましい条件は、気温15℃~30℃、湿度75%以下です。塗装出来る条件をもう少し広げると、気温5℃~40℃、湿度85%以下になります。
気温5℃以下、湿度85%以上の範囲では、塗料の乾燥が大幅に遅れたり、白化(ブラッシング)を起こしたり、2液型エポキシ樹脂塗料では反応が進まず、期待する性能が得られないなどの問題が起きます。
このように、乾燥時の条件は、気温・湿度が中心になりますが、これらに影響を与える風の強さや天候などに十分注意する必要があります。