3.研ぎ作業及び器工具

3.研ぎ作業及び器工具

 研磨作業方法にはハンドファイルや当てゴムなどを利用して行う手研ぎと、サンダーを利用して行う機械研ぎがある。

(1)手研ぎ

 手研ぎは、被塗物の形状が複雑な箇所や下地(ポリエステルパテなど)の大きな凹凸部を研磨するときに行われる。効率は悪いが、人の手で作業するため削りすぎることがなく、また、平滑面を形成するためには最も確実な方法である。

 

(2)サンダーによる研磨

 サンダーによる研ぎは、手による研ぎのおよそ2倍以上の能率が上がる。また、使用する研磨紙は、手研ぎよりも1級粗い研磨紙を使用するので、目詰まりも少なく長持ちし、経済的である。また、作業者の疲労が少ないという利点もあるが、種類によって運動の仕方が異なるので、素地の種類、塗膜の種類に応じて、最も適する使い方をしなければならない。

 サンダーには動力源によりエア式と電気式がある。エア式のほうが本体重量も軽く、素地研磨、塗膜研磨とも使いやすい。また、水研ぎができるのが最大の特徴である。電動式は音は小さいが本体がエア式に比べて重く、感電の恐れがあるので、安全上水研ぎには適さない。

 これらのサンダーはポリッシャーとしても使われる。

a 電気によって動くもの

 動力源に小型のモーター(100~110V)を用いて、その回転によって研磨ディスク、又は研磨紙の取り付けられたパットを動かすようにしたもので、電源さえあれば、どこにでも持ち運ぶことができ、簡単に作業ができるという点で、最も多く用いられている。

b エアによって作動するもの

 いずれも圧縮空気の圧力0.4~0.7MPa(4~7kgf/)を利用して、回転、振動を起こさせるようにしたもので、動力源に電気を用いないため、水研ぎと併用できるようになっているサンダーもある。塗膜研ぎと兼用する場合には大変便利である。コンプレッサーを必要とするので、少々音が大きいのが欠点である。その他、所定の研磨紙の裏に接着剤を付け、ゴムパットの表面に張り付けて研磨できるものもある。


(3)ポータブルサンダー

 現場作業に用いる手持ちサンダーをポータブルサンダーと呼ぶ。

a ディスクサンダー

 パッド(研磨面)の動きが単純な円運動を描くため、旧塗膜のはく離、さび落とし、下地パテの粗研ぎなどの作業に使用する。ディスクサンダーは研ぎ足が目立ちやすいため、よい研ぎ足をつける。

b オービタルサンダー

 パッドの中心軸は、だ円の軌跡を描く。このパッドは長方形が多く、また研磨面に当たる面が平面で、かつ面積が広いため、このサンダーは塗膜研磨やパテの面出し作業に適している。

c ダブルアクションサンダー

 パッド自体が回転する上に、その回転軸がサンダー本体の中心軸から変身して回転しているため、複雑な軌跡を描く、また、パッドを研磨面に押し付ける力によってパッドの軌跡が変化するため、研ぎ足はより複雑になり、ペーパー目が目立ちにくくなる。それゆえ、このサンダーは中塗り塗膜の研磨やパテの面出しに適している。

2.研磨紙(サンドペーパー)の使い方

2.研磨紙(サンドペーパー)の使い方

(1)研磨紙の種類と番号

 耐水研磨紙(水研ぎ用)、研磨紙(から研ぎ用)及び研磨布に大別される。これらは、研磨材(と粒)を固着させる基材と接着剤が異なり、耐水研磨紙には水に溶けない接着剤が用いられている。から研ぎ用の研磨紙を水につけると、接着剤が溶けて紙だけになってしまう。

 と粒には、炭化けい素、溶融アルミナやガーネットなどが使われている。研磨紙は、と粒の大きさで区別され、番号はふるいの網目の数を表しているから、数字が大きくなるほど粒子は細かくなる。研磨紙の裏を見ると、と粒の材質や粒の大きさを示す記号がわかる。

 炭化けい素は、研いでいる途中に細かく砕け、常に鋭角な面ができ切削性を維持する。また、溶融アルミナは硬く、研削力が強いため下地に鋭く食い込み、旧塗膜のはく離作業に適している。


(2)研磨紙の選び方と使い方

 取り扱う研磨紙は、研ぎ作業後、次に塗る材料によって異なる。

 例えば、パテを付けて場合、P80~150で大きな凸部を研ぎ、P180で研ぎ足を除きながら全体的にパテ面を削り取る。次に、P240でパテ面を平滑に仕上げる。なお、パテを水研ぎすると、パテは水を吸い込み、素地金属がさびたり、塗装後にブリスター(膨れ)が生じたりする。したがって、水研ぎ作業は防水塗膜が形成される中塗り塗膜の研ぎ作業から行うほうがよい。

1.研磨方法

1.研磨方法

(1)水研ぎ

 耐水研磨紙、といしなどにみずをつけながら研ぐ方法である。一般に耐水研磨紙は、普通の研磨紙に比べて同じ粒度でも研磨能力が高い。耐水研磨紙の場合、パテ研ぎはP180~240くらいが適当である。中塗りはP320~400くらい、上塗りはP600くらいが一般的である。上塗り塗膜のゆず肌を修正する場合には、P1000以上の研磨紙を用いた方が、ポリッシングによる作業が容易になる。

 せっけん水をつけて研ぐと、からみが少なく、きれいな研ぎ面ができる。水を付けるには、布片又はスポンジを水に浸しておき、軽く握って、水をたらしながら研ぐとよい。

 研ぎ方には、手研ぎと機械研ぎがある。研ぎ方向は、往復運動あるいは回転運動を行う。いずれも被塗物の形状などを考慮して使い分けをするとよい。

 

(2)から研ぎ

 研磨紙、研磨布、といしなどを用い、水や油などを使わずに研ぐ方法である。パテ研ぎはP180~240、中塗りはP240~320程度が一般的である。

 研磨作業の能率を高めるために、動力工具の一種であるサンダーを用いてから研ぎを行うことが多い。しかし、粉じんが発生するので、作業者は防じんマスクを着用する必要がある。

5.静電スプレー

5.静電スプレー

 私たちの周りにある物質は、同量の正・負の電荷をもち、普通の状態では電気的に中性(電荷量0)である。しかし、何らかの原因で物質が電子を放出したり、受け取った入りすると電荷のバランスが崩れ、その物質全体として正(プラス、?)又は負(マイナス、)に帯電する。例えば、プラスチック製の下敷きで髪の毛をこすると、摩擦によってプラスチック製の下敷きはに、髪の毛は?に帯電する。

 この現象をもとに、放電(スパーク)について考えてみよう。プラスチック製の下敷きがアース(接地)されている金属製のパイプ(導電体)に接続している場合は、プラスチック製の下敷きを摩擦しても電荷は直ぐに金属製のパイプを伝わってアース(地面)へと流れ、電荷は残ることなく、常の中性(電荷量0)になる。

 一方、プラスチック製の下敷きと金属製のパイプが接続していても、電気を通さない絶縁性(不良導電体)の手袋や靴などを身に着けている場合は、アース(地面)と絶縁されているため、プラスチック製の下敷きに帯電している電荷はアースへと流れず電荷はたまった状態(帯電)となっている。このようなプラスチック製の下敷きに、絶縁されていないほかの導電体(アースへと電荷が流れる状態)の物質を近づけるとその瞬間に放電(スパーク)する。湿度の低い冬期に私たちが静電気によって痛い経験をするのは、この現象と同じことが起きているからである。

 したがって、帯電防止手袋などをして金属製のパイプ(導電体)をもち、かつ通電性の良い靴を履き、さらには水で床を湿らせた導電状態の環境であれば、発生した電荷は人体を伝わってアース(地面)に流れるため放電(スパーク)の危険性はない。

 放電(スパーク)は一瞬であるが、このとき周囲に可燃性の溶剤蒸気がある一定濃度あると、それが点火源となって爆発を引き起こす。塗装作業は、引火性の塗料を取り扱うため、静電気をためないように作業場の物品はアースを確実の施しておくことが大切である。アース線を水道管につなげば大丈夫だと思いがちだが、水道管は途中から塩化ビニル製の継手に接続されていることが多く、アースされない危険性がある。

 

(1)原理

 帯電した塗料粒子を被塗物(アースされていること)まで運び、付着させる役目を静電気が果たす。そのためには、静電界を、塗料噴出口と被塗物間に形成させる機構が必要となる。装置の基本は次のようになる。

①交流(AC)を取り入れて、直流(DC)の高電圧を発生させる装置―高電圧発生器

②塗料噴出口がマイナス極に、被塗物がプラス?極になること。アースを完全に取ること。

③塗料を霧化させること。

 の高電圧(3~10万ボルト)によって電極部分の空気がイオン化され、このイオン化空気の部分が?の被塗物に吸引されるときに空気の流れをつくり出す。これをイオン風と呼び、塗料粒子はこのイオン化域でに帯電し、?極の被塗物に効率よく塗着する。

 

(2)特徴

 静電塗装は、金属製品の多量生産の塗装方法とし一般化している。その特徴は次の通りである。

a 長所

①塗着効率が高く、塗料が節約できる。

②安定した塗装のつきまわり性が得られ、作業工程、時間の短縮ができる。

b 短所

①エアスプレーに比べ、装置が効果である。(イニシャルコストが高い)

②プラスチック部品や成形物、などの絶縁性物質には、通電剤の塗布が必要となる。

③凹凸のある被塗物に対しては、均一な膜厚が得にくい。

④塗料の電気抵抗値を適正な範囲(0.3~2MΩ・m)に調整する必要がある。

 被塗物が凹凸の形態をしているとき、塗料粒子はエッジ部(角のある部分)に塗着しやすく、厚膜となるが、凹の隅には入りにくい。

 

(3)塗装方式の種類

 エアスプレー、エアレススプレーと同様に、塗料を霧化して被塗物に塗着させる方式が基本である。

 

(4)塗着効率に及ぼす塗料の要因

a 浮遊粒子の大きさ

 霧化されて飛び出してきた粒子は、前へ進もうとする運動エネルギーをもっている。この粒子を、硬式野球のボールと卓球のピンポン玉に例えると、大きくて重い硬式野球ボールは勢いよく遠くへ飛んでいこうとするが、軽くて小さいピンポン球は、すぐに運動エネルギーを失ってしまう。すなわち、粒子が小さいほど静電気力で吸着しやすい。

 また、微粒化した粒子の帯電は、表面帯電である。一定量の塗料をたくさんの微粒子にした場合と少ない微粒子にした場合とでは、全粒子の表面積は前者の方がはるかに大きいので、静電効果の差が生じる。

 したがって、塗料粒子が小さくなるほど塗着効率は高くのなるので、塗料の粘度をエアスプレーよりも低くする方がよい。

b シンナーの組成

 静電塗装においては、よい塗料を使うか否かが、仕上がりに大きな影響を及ぼす。前述したように、塗料粒子は小さく、かつ電荷量が大きいほど静電効果が高まる。塗料の電気抵抗値には適切な範囲が存在するため、通常は静電用シンナーを混合して、塗料の粘度と抵抗値を調整する。塗料の電気抵抗値が低いと、霧化粒子の電荷量が小さくなって、つきまわり性や膜厚の均一性などが悪くなる。シンナー中に含まれる溶剤の作用をまとめると、次のようになる。

(a)蒸発速度の遅い溶剤

 塗料中に占める蒸発しにくい溶剤(低速度溶剤)の含有量は、10~20%程度である。低速度溶剤は、塗料粒子の飛行中の乾燥速度を遅くするため、塗装効果が高まる。蒸発速度の速い溶剤が多いと、粒子の飛行中でも溶剤が蒸発してしまい、塗装面がウェット状態にならじドライ状態の塗膜形成となり、平滑な塗面が得られない。

(b)極性溶剤

 メタノールのアセトンは水とよく混合する。’似たもの同士はよく溶ける’といわれるように、水とよく混合する溶剤はその性質が水とよく似ており、極性溶剤と言われている。溶剤の極性が高いほど、電気抵抗値が低い。塗料の電気抵抗値が高い場合には、極性溶剤を添加するとよい。静電用シンナーには、極性溶剤と揮発を遅くする低速度溶剤が混合されている。

 電気抵抗値を測定するには、ペイントテスタを使用する。これは、1cmの間隔で1cm角の金属板が対向している電極板を塗料中に挿入して、その間の抵抗値を計測するものである。

 

(5)静電塗装機の取扱い

 静電塗装を行う場合に、最も注意しなければならないのは、静電気による火災である。この原因は、日常の管理不備によるところが大きい。

 スプレーガン、高電圧発生器、ケーブル、ホース、塗料容器、コンベアハンガー、作業者など、すべてのものに対してアースをとる。また、塗料ミスト付着により絶縁不良を起こすことを忘れてはならない。

 作業者は帯電防止手袋などを着用し、作業靴も通電性のある静電用作業靴を使用する。帯電量は物体の表面積に比例して増加するため、作業者が絶縁状態にあると身体全体に静電気がたまってしまう。これを知らずに、塗料汚れを落とそうとしてシンナー缶に触れると、その瞬間にスパークし、引火してしまう。

 最近の静電塗装機には、安全性に配慮した安全保護機能がついており、万一の場合には、高電圧を遮断したり、異常ブザーで知らせる機能となっているが、基本的な安全操作を決して忘れてはならない。

4.空気圧縮機(エアコンプレッサー)

4.空気圧縮機(エアコンプレッサー)

 汎用タイプの空気圧縮機は、ピストンの上下運動によって空気を圧縮している。騒音や振動が大きいため、ピストンの代わりにスクリュー回転によって圧縮空気をつくり出すスクリュー形空気圧縮機や、スクロール式などもある。

 外気を取り入れて、空気タンクに圧縮貯蔵する。ピストン式では、空気を次のように圧縮する。

①ピストンが下死点に向かうと、吸込み弁が開き、空気が入る。

②上死点に進むと、吸込み弁が閉じ、空気を圧縮する。

③排出口の圧縮以上になると、排出弁が開き始め、圧縮された空気は空気タンクに送られる。

④次に、下死点に向かう位置になると、排出弁が閉じ、吸込み弁が開き始める。

⑤①~④の工程を繰り返す。

 

(1)構造

 圧縮空気を作る本体、圧縮空気をためる空気タンク、圧縮空気中の油や水分を除去して圧力を一定とする空気清浄圧力調整器、本体を動かす電動機、圧力の範囲を一定にする制御装置などで構成されている。

a 本体

 本体はピストンの径と行程により大きさが決まり、排出圧力と回転数により所要動力が定められている。また、本体には、クランク軸、連接棒、ピストン、シリンダ、シリンダヘッド、吸・排気弁などがあり、内燃機関と類似している。

b 空気タンク

 ピストンの往復運動によって圧縮された空気は、温度が高く圧力の工程が著しいため、これを直接塗装に使用することはできない。いったん空気タンクに貯蔵して冷却したものを使用する。また空気タンクは空気の脈動防止にも役立っている。

c 空気清浄圧力調整器(エアトランスホーマー)

 圧縮機から空気タンクに送られる圧縮空気中には、微量の油分やごみ、ほこりなどが含まれている。

 排気弁通過後の圧縮空気は100~150℃の高温になり、空気タンクにたまった時でも、外気温以上の温度にある。圧縮を中止して放置すると、圧縮空気が冷える。その結果、圧縮空気中の水蒸気がタンク壁面で結露し、液体(水)になり、タンクの下部にたまる。タンクについているドレンバルブを開けると、水が出てくる。水分を含んだ空気を使用すると、塗装面にはじきやピンホールなどの欠陥が発生しやすい。

 空気清浄圧力調整器の働きは、次の二つである。

 ①圧縮空気中の水分、油分、ごみなどの除去

 ②圧力の調整

d 電動機

 本体の大きさにより、0.4~2.2kWの範囲の電動機が多く使用される。

 また、最高使用圧力と回転数により、電動機の馬力の1.2倍以上の内燃機関を取り付ける必要がある。

e 自動アンローダ

 自動運転制御の一方法で、空気圧力が決められた圧力になると吸気弁が開放され、無負荷運転とするものである。

 このほか、自動的に運転を停止する圧力スイッチ制御もよく使われるが、反応圧力範囲が0.15~0.2MPaであるため、空気タンクが大きく、電動機の出力も大きくないと効果が少ないので、0.7kW以下ではあまり用いられない。空気使用料に応じて運転状態を自動制御する装置などもある。


(2)操作

 操作に当たっては、次の点に注意しなければならない。

①オイルが規定量入っているかどうかを調べ、不足していれば補充する。

②アンローダ又はリフターを働かせて、電動機の始動動力を軽減させ、スイッチを入れる。リフターは、つまみを下げて無負荷状態にする。また、アンローダは、ハンドルを右に回し、無負荷状態にする。

③圧縮機の回転方向が矢印とあっているかを確認し、逆の場合は配線を変える。単層モーターは、モーター銘板を見て変更し、反発モーターはブラシの向きを変更する。三相モーターは、3本線のうち2本を入れ替える。

④圧縮機が回転を始めたら、負荷状態にして戻して圧縮を行う。

⑤停止するときも同じように無負荷にしてからスイッチを切る。

 

(3)空気圧縮機の保守

a 毎日点検する項目

①潤滑油の汚れ、量

②ドレンの排出

③圧縮開閉器、アンローダ、安全弁などの装置

④異常音、振動

b 毎月点検する項目

①吸込みろ過器のフィルター

②Vベルトのいたみ、緩み

③各締め付け部

 その他、3カ月から6カ月ごとに潤滑油の交換を行うことが望ましい。また、空気タンクの損傷の有無、ふたの締め付けボルトの摩耗の有無、管及び弁の損傷や摩耗の点検は毎年行うことが法令で義務付けられている。