5.静電スプレー

 私たちの周りにある物質は、同量の正・負の電荷をもち、普通の状態では電気的に中性(電荷量0)である。しかし、何らかの原因で物質が電子を放出したり、受け取った入りすると電荷のバランスが崩れ、その物質全体として正(プラス、?)又は負(マイナス、)に帯電する。例えば、プラスチック製の下敷きで髪の毛をこすると、摩擦によってプラスチック製の下敷きはに、髪の毛は?に帯電する。

 この現象をもとに、放電(スパーク)について考えてみよう。プラスチック製の下敷きがアース(接地)されている金属製のパイプ(導電体)に接続している場合は、プラスチック製の下敷きを摩擦しても電荷は直ぐに金属製のパイプを伝わってアース(地面)へと流れ、電荷は残ることなく、常の中性(電荷量0)になる。

 一方、プラスチック製の下敷きと金属製のパイプが接続していても、電気を通さない絶縁性(不良導電体)の手袋や靴などを身に着けている場合は、アース(地面)と絶縁されているため、プラスチック製の下敷きに帯電している電荷はアースへと流れず電荷はたまった状態(帯電)となっている。このようなプラスチック製の下敷きに、絶縁されていないほかの導電体(アースへと電荷が流れる状態)の物質を近づけるとその瞬間に放電(スパーク)する。湿度の低い冬期に私たちが静電気によって痛い経験をするのは、この現象と同じことが起きているからである。

 したがって、帯電防止手袋などをして金属製のパイプ(導電体)をもち、かつ通電性の良い靴を履き、さらには水で床を湿らせた導電状態の環境であれば、発生した電荷は人体を伝わってアース(地面)に流れるため放電(スパーク)の危険性はない。

 放電(スパーク)は一瞬であるが、このとき周囲に可燃性の溶剤蒸気がある一定濃度あると、それが点火源となって爆発を引き起こす。塗装作業は、引火性の塗料を取り扱うため、静電気をためないように作業場の物品はアースを確実の施しておくことが大切である。アース線を水道管につなげば大丈夫だと思いがちだが、水道管は途中から塩化ビニル製の継手に接続されていることが多く、アースされない危険性がある。

 

(1)原理

 帯電した塗料粒子を被塗物(アースされていること)まで運び、付着させる役目を静電気が果たす。そのためには、静電界を、塗料噴出口と被塗物間に形成させる機構が必要となる。装置の基本は次のようになる。

①交流(AC)を取り入れて、直流(DC)の高電圧を発生させる装置―高電圧発生器

②塗料噴出口がマイナス極に、被塗物がプラス?極になること。アースを完全に取ること。

③塗料を霧化させること。

 の高電圧(3~10万ボルト)によって電極部分の空気がイオン化され、このイオン化空気の部分が?の被塗物に吸引されるときに空気の流れをつくり出す。これをイオン風と呼び、塗料粒子はこのイオン化域でに帯電し、?極の被塗物に効率よく塗着する。

 

(2)特徴

 静電塗装は、金属製品の多量生産の塗装方法とし一般化している。その特徴は次の通りである。

a 長所

①塗着効率が高く、塗料が節約できる。

②安定した塗装のつきまわり性が得られ、作業工程、時間の短縮ができる。

b 短所

①エアスプレーに比べ、装置が効果である。(イニシャルコストが高い)

②プラスチック部品や成形物、などの絶縁性物質には、通電剤の塗布が必要となる。

③凹凸のある被塗物に対しては、均一な膜厚が得にくい。

④塗料の電気抵抗値を適正な範囲(0.3~2MΩ・m)に調整する必要がある。

 被塗物が凹凸の形態をしているとき、塗料粒子はエッジ部(角のある部分)に塗着しやすく、厚膜となるが、凹の隅には入りにくい。

 

(3)塗装方式の種類

 エアスプレー、エアレススプレーと同様に、塗料を霧化して被塗物に塗着させる方式が基本である。

 

(4)塗着効率に及ぼす塗料の要因

a 浮遊粒子の大きさ

 霧化されて飛び出してきた粒子は、前へ進もうとする運動エネルギーをもっている。この粒子を、硬式野球のボールと卓球のピンポン玉に例えると、大きくて重い硬式野球ボールは勢いよく遠くへ飛んでいこうとするが、軽くて小さいピンポン球は、すぐに運動エネルギーを失ってしまう。すなわち、粒子が小さいほど静電気力で吸着しやすい。

 また、微粒化した粒子の帯電は、表面帯電である。一定量の塗料をたくさんの微粒子にした場合と少ない微粒子にした場合とでは、全粒子の表面積は前者の方がはるかに大きいので、静電効果の差が生じる。

 したがって、塗料粒子が小さくなるほど塗着効率は高くのなるので、塗料の粘度をエアスプレーよりも低くする方がよい。

b シンナーの組成

 静電塗装においては、よい塗料を使うか否かが、仕上がりに大きな影響を及ぼす。前述したように、塗料粒子は小さく、かつ電荷量が大きいほど静電効果が高まる。塗料の電気抵抗値には適切な範囲が存在するため、通常は静電用シンナーを混合して、塗料の粘度と抵抗値を調整する。塗料の電気抵抗値が低いと、霧化粒子の電荷量が小さくなって、つきまわり性や膜厚の均一性などが悪くなる。シンナー中に含まれる溶剤の作用をまとめると、次のようになる。

(a)蒸発速度の遅い溶剤

 塗料中に占める蒸発しにくい溶剤(低速度溶剤)の含有量は、10~20%程度である。低速度溶剤は、塗料粒子の飛行中の乾燥速度を遅くするため、塗装効果が高まる。蒸発速度の速い溶剤が多いと、粒子の飛行中でも溶剤が蒸発してしまい、塗装面がウェット状態にならじドライ状態の塗膜形成となり、平滑な塗面が得られない。

(b)極性溶剤

 メタノールのアセトンは水とよく混合する。’似たもの同士はよく溶ける’といわれるように、水とよく混合する溶剤はその性質が水とよく似ており、極性溶剤と言われている。溶剤の極性が高いほど、電気抵抗値が低い。塗料の電気抵抗値が高い場合には、極性溶剤を添加するとよい。静電用シンナーには、極性溶剤と揮発を遅くする低速度溶剤が混合されている。

 電気抵抗値を測定するには、ペイントテスタを使用する。これは、1cmの間隔で1cm角の金属板が対向している電極板を塗料中に挿入して、その間の抵抗値を計測するものである。

 

(5)静電塗装機の取扱い

 静電塗装を行う場合に、最も注意しなければならないのは、静電気による火災である。この原因は、日常の管理不備によるところが大きい。

 スプレーガン、高電圧発生器、ケーブル、ホース、塗料容器、コンベアハンガー、作業者など、すべてのものに対してアースをとる。また、塗料ミスト付着により絶縁不良を起こすことを忘れてはならない。

 作業者は帯電防止手袋などを着用し、作業靴も通電性のある静電用作業靴を使用する。帯電量は物体の表面積に比例して増加するため、作業者が絶縁状態にあると身体全体に静電気がたまってしまう。これを知らずに、塗料汚れを落とそうとしてシンナー缶に触れると、その瞬間にスパークし、引火してしまう。

 最近の静電塗装機には、安全性に配慮した安全保護機能がついており、万一の場合には、高電圧を遮断したり、異常ブザーで知らせる機能となっているが、基本的な安全操作を決して忘れてはならない。

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