3.コンクリート構造物の塗装

3.コンクリート構造物の塗装

(1)コンクリート塗装の歴史

 かつて塗壁の塗装は、建築塗装において最もトラブルの多い仕上げであって、変色、膨れ、葉枯れなどの欠陥が多く発生した。

 昭和20年代や30年代の初期では、木部、鉄部への油性塗料や合成樹脂調合ペイント塗りが主体であったが、この種の塗料には耐アルカリ性がないため、アルカリ性素地であるコンクリート、モルタル、塗壁などに対する塗装は不可能であった。

 昭和30年代に入り、耐アルカリ性合成樹脂エマルション樹脂塗料や溶剤形のものも入手できるようになって、壁面塗装は次第に拡大発展し、今日に至っている。特にエマルション系塗料は、溶剤形に比べて作業性がよく、安全性も高く、さらに低臭性であるため建築用塗料の主流となっている。

 外壁面の化粧仕上げでは、昭和25年(1950)ごろより現場調合による吹付けリシン工法が普及したが、セメント系であるためエフロレッセンス(白華)の欠陥に悩まされ、調色も色数が不足し困難であった。昭和32年(1957)ごろからアクリルエマルション樹脂系の吹付けリシンが出現して、外装吹付け用塗材の主流を占めるようになった。

 昭和40年代に入り建築様式や建築用資材の多様化から、建築用塗料の品種も大幅に増加し、下塗り材、取材、上塗り材の3種の塗料からなる複層仕上塗材が普及して、多彩なパターンや意匠性に富む仕上げが可能となった。また、吹付け材と呼ばれる仕上げ材が必ずしも吹付け工法のみによって仕上げられるのではなく、ローラ塗り、こて塗りによっても施工されることが多くなったため、従来一般に吹付け材と呼ばれてきたものも仕上塗材と呼ばれるようになった。昭和59年(1984)に吹付け材から仕上塗材へとJISの大改正が行われたからである。

 昭和50年代にはアクリル樹脂系を主体とするものから、耐久性の向上を求めてアクリルウレタン、アクリルシリコン、ふっ素樹脂系へと開発が行われ、今日に至っている。

 昭和50年代に入り普及してきたコンクリート構造物の劣化の指摘を受け、ゴム状弾性をもつ弾性塗料が壁面のクラックから発生する漏水を防止する防水形の仕上塗材として多用されてきた。しかし、壁面内外部からの水の侵入等による膨れや鋭利な刃物などによる塗膜欠損等のトラブルが問題となり、今日、微弾性の塗料が多く用いられている。塗膜には低汚染、防藻、透湿性などの諸機能も付与されている。現在、建築用仕上塗材として多くの種類の製品が市販されている。

(2)コンクリート塗装の種類

 コンクリート構造物、特に外壁は一般建築用塗料による仕上げ(平滑面仕上げ)と、主に吹付け工法やローラ塗り、こて塗り仕上げの建築用仕上塗材によるものの2種に大別される。さらにコンクリート、セメントモルタル、ALCパネルなど無機質素地面を対象とする塗装があり、あらゆる種類の塗料と仕上塗材が塗装に適用できるということである。

2.コンクリート構造物の劣化

2.コンクリート構造物の劣化

 半永久的と思われていたコンクリート構造物も意外に早く劣化することが分かっている。コンクリート構造物のれ化現象は、おおよそ次の種類に大別される。

 ①ひび割れ ②中性化 ③アルカリ骨材反応 ④塩害 ⑤凍害 ⑥特殊環境下の劣化

(1)ひび割れ

 建物に発生するひび割れは、コンクリート構造物とこれを仕上げている仕上げ部材に発生するものの2種類である。コンクリート面と仕上げ部材のひび割れから水分、酸素、炭酸ガス、塩分、腐食性ガスなどがコンクリート層内部に浸透して、鉄筋のさびを誘発し、同時にコンクリートの中性化を促進する原因となっている。

(2)中性化

 大気中の炭酸ガスがコンクリートの表面やひび割れから浸透・拡散し、セメント水和生成物である水酸化カルシウムと化学反応を起こすことによって、中性炭酸カルシウムに変化する現象である。中性化は表層部から内部へと次第に進行する。

 Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O

 中性化が鉄筋部分に達すると、コンクリート強度が著しく低下し、コンクリートの強アルカリによって保護されている鉄筋の防食機能まで低下し、さびが発生するようになる。

(3)アルカリ骨材反応

 橋や高速道路などのコンクリート構造物は、打放しで半永久的に強度を維持できると考えられていた。ところが、昭和50年代の初めに、早期のコンクリート構造物にひび割れが発生する現象が多発した。その原因は、これまで日本に存在しないといわれてきたアルカリ骨材反応によることが判明して、一気に社会の関心がアルカリ骨材反応に集中した(昭和50年代後半)。

 アルカリ骨材反応とは、セメント中のアルカリ骨材の岩石中に含まれる反応性のシリカ鉱物とが反応して膨張し、その圧力のため、コンクリートにひび割れが発生する現象である。

 わが国では良質の骨材が不足しているため、山砂利や砕石を使用せざるを得なくなり、これらの中に反応性のものが含まれていることが原因となった。アルカリ骨材反応は、コンクリート構造物がかなりの高湿度の環境にさらされることと、また外部からの水分の供給がある場合に著しく促進する。

 しかしアルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の破壊は、破壊伸びの大きい、厚膜仕上げの塗装系を施すことにより抑制できることが分かっている。

(4)塩害

 コンクリートのひび割れから海塩粒子などの塩化物が浸透すると内部鉄筋の腐食を招き、構造物の耐久性を低下させる。これからも分かるように、コンクリートの骨材に海砂を使用することは極めて危険である。健全なコンクリート構造物では、内部は強アルカリ性(pH12以上)で、鉄筋は保護され腐食しにくい。しかし、コンクリート中に塩化物イオンが一定量以上存在すると、鉄筋表面の不動態皮膜は破壊され、鉄筋は腐食しやすくなる。塩分はコンクリート構造物の寿命を著しく損なうものである。

(5)凍害

 コンクリート中の水分の凍結融解による風化現象である。一般に、構造物の水にさらされる水面上や水際線の上部に発生しやすい。コンクリート中に含有する水分が凍結すると、その膨張圧でコンクリートにひび割れが発生し、表層がはく離する。

(6)特殊な環境下における劣化

 コンクリートは、有害化学物質にさらされることにより劣化する。大気汚染物質や化学物質は、酸として作用する場合、コンクリートの表面は徐々に浸食され、表面劣化や強度低下の原因となる。

 特にコンクリートのひび割れは、構造物の耐久性を低下させる主因である。ひび割れの原因はいろいろあって、現在でも完全な防止対策は取れない状況である。

 塗料を塗る工法による表面仕上げ技術は、直接、間接的にきわめて有効な対策となるもので、加えて美観に乏しいコンクリート構造物に多彩な美粧性を付与するなど、保護と美粧の両面に大きな役割を果たしている。

1.コンクリート構築物について

1.コンクリート構築物について

 コンクリートは、圧縮に対する強さは大きいが、引張りの力には弱い。コンクリートの中に鉄筋を入れて補強したものを鉄筋コンクリート(RC)という。これは圧縮に強いコンクリートの特性と、引張りや曲げに強い鉄筋の特性を生かした複合材料で、この材料を基本としてSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)、CB(補強コンクリートブロック)構造が開発され、さらには工場でコンクリートパネルを生産するPC(プレキャストコンクリート)工法が、今日のビル建築の工期短縮に寄与している。

(1)RC造(鉄筋コンクリート造)

 コンクリートを鉄筋で補強したものを鉄筋コンクリート(RC:Reinforced Concrete)といい、このRCで主要な部材を構成する建物をRC造という。コンクリートの材質により、鉄筋コンクリートと軽量鉄筋コンクリートに大別される。

(2)SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)

 鉄骨造(S造)とRC造を組み合わせ、鉄骨骨組の周囲に鉄筋を配し、コンクリートを打ち込んだものをSRC(Steel framed Reinforced Concrete)といい、それらを主要構造部材とする建物をSRC造という。

 力学的には、鉄骨と鉄筋コンクリートが協力した構造体として働く。鉄骨と鉄筋の比率に標準的なものはなく、鉄筋コンクリートを鉄骨の座屈止め程度に扱ったものから、鉄骨断面が小さく、ほとんど鉄筋コンクリートに近いものまでかなり幅広い。一般には鉄筋コンクリートより粘りがあるため、高層建築に多く利用されている。

(3)PC(プレキャストコンクリート)

 あらかじめ工場で製作したRC部材を総称して、PC(Precast Concrete)という。壁パネル・床パネル・屋根パネルなどのPC板が工場で生産され、これらを現場で組み立てて構造体をつくる。なお、コンクリートには、普通コンクリート・軽量骨材コンクリート、あるいは気泡コンクリートなどを使用する。

 塗装施工にあたっては、建築物の部位によって仕上げが異なる。

 セメントまたはせっこうを原料とするパネルが、コンクリート建築物の壁や天井部に使用されている。

6.工業化住宅

6.工業化住宅

 現場施工主体で築き上げられる在来工法の木造建築は、多くの労力と工期を必要とする建築工法である。

 建築物の品質も、現場作業における各職種の能力の総合的なものが結果として表れるから、均一な品質を常時期待することは難しい。

 これに対して、工業化住宅は住宅の安全性・居住性・耐久性の性能は確保されやすい。基礎工事から完了までの工期も、在来工法に比べてはるかに短縮できるため、工業化住宅は増加・発展する傾向にある。建築塗装においても、今後塗替えの大いなる対象となる工業化住宅の現状を把握しておかなければならない。

 工業化住宅は、住宅生産工場で生産された部品・部材を建築現場に搬入し、あらかじめ決められた工程に従って、基礎工事から仕上げまで現場工事を進め、住宅を完成させるものである。

(1)工業化住宅の塗装

 工業化住宅の各部品・部材は、その大部分が工場塗装で施工されるので、現場塗装の分野は減少する傾向にある。今後、工業化住宅の塗装は、新規工事より塗替え工事に重点がおかれることになるが、現場塗装のものに比べて、工場塗装されたものの塗替えは難しいことを理解する必要がある。

 工場塗装では2液型塗料などの高性能塗料を使用するが、これは塗替え塗料とのなじみが悪く、付着力が低い。長い時間の経過により塗膜面に粉化、汚れ、浮き、割れなどの劣化が発生した段階で、塗り替える。工業化住宅では外壁材の種類が多く、表面の塗装仕上げも多様化しているので、その意匠性を維持するためにクリヤ仕上げとなることが多い。

(2)壁面の塗装仕上げ

 塗替え工事では、上塗り面が塗装下地となる。特殊仕上げには、そのほかに厚吹きスタッコ仕上げがある。工業化住宅では、工場生産による外壁パネルを現場搬入し、建方工事によって外壁を構成するため、左右のパネル間及び1,2階パネル間などに目地ができる。目地部はシーリング材などで防水性能が確保されているが、パネル間の目地が目立ちやすく、壁面としての一体感に欠ける仕上げである。

 外壁を目地のない大壁状に仕上げる目的で開発されたのが、厚吹きスタッコ塗装である。この塗装は現場施工によるもので、目地処理がこの工法の要点となっている。

5.在来工法の住宅塗装

5.在来工法の住宅塗装

(1)外部の塗装

 塗装の対象とされる素地の種類は木部、金属、セメント系の3種である。金属面の塗装部位は、屋根、ひさし、ベランダ鉄部、面格子(木製の場合もある)で、屋根、ひさしがカラートタンに、ベランダ、面格子がアルミ建材の製品に置き換えられれば、塗装部位は大きく減少し、木部、モルタル面に限定される。

 木部の塗装は合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)、1液型ウレタンワニス塗り(1-UC)、2液型ウレタンワニス塗り(2-UC)、木部保護着色剤(WPステイン)塗りが主に用いられる。

 近年多用されているWPステイン塗りは、着色と同時に木部の防腐・防虫保護の役目を果たすものである。この塗料は作業性も容易で、維持・補修の塗替え塗装に適した塗料である。防水と水分排出の両機能を持つもので、木材用塗料として好ましい特性をもっている。

 3回塗りが標準の塗装仕様では、木材に十分な量の塗液が浸透するよう塗装しなければならない。素地の乾燥が必要であることはいうまでもない。色調はクリヤから濃色のものまで各種あるが、濃色のものほど耐久性がある。無色に近いクリヤ系のものは耐久性に乏しい。塗替えは4~5年前後で行えば理想的である。

 モルタル面のリシン吹付けでは、素地の乾燥を十分に行って、シーらー塗り→下吹き→上吹きの工程を確実に施工すれば、7~8年の耐久性は確実である。塗替えの最良期は6年前後とされている。作業の要点は吹付け前の養生(マスキング)である。和風住宅の塗装部位は、形状が変化に富み複雑なため、各部材の養生に相当な労力が必要となることを忘れてはならない。養生作業の見積もりが大切である。

 別荘・ログハウスなどは塗装面積も大きいが、塗装はWPステイン塗りが中心で、腐食防止に重点をおいた塗装が多用される。別荘地などは都会と異なり、朝夕は高湿度の環境となりやすい。木材の乾燥を考えた作業時間の管理が大切である。

 

(2)内部の塗装

 内部の塗装部位は、日本間、洋間、廊下(1,2階)、階段、台所、便所、玄関内外、その他である。

a.日本間の塗装

 日本間の塗装は本来、清めの洗いのみで、場合によってワックスによる磨きの仕上げが追加されるが、天井、柱、長押などに塗り仕上げが行われることは少ない。アクリル系クリヤラッカーのつや消し仕上げを、素木仕上げと称して塗装することも多いが、厚塗りは好まれない。

 日本間の仕上げは、素木仕上げが基本である。構成材料であるヒノキ、スギなどの高級材の固有の美しさ、質感を厚塗りで壊したくないからである。しかし、昨今では天井、柱、その他を濃褐色のステインでふき上げ、その上につやなしクリヤラッカー塗り、つやなしワニス塗りで仕上げる古色仕上げが行われることも多い。

 この場合、一般的に壁面は左官工事の漆喰仕上げである。柱と壁との対比を強調した仕上げで、意匠効果も優れている。床の間では漆塗り、又は漆塗り様の塗装が天板、地板に行われる。

 階段、廊下はウレタン系の透明仕上げが行われるが、塗料には無黄変タイプの2液型ポリウレタンワニスを用い、最後に塗膜の研磨による磨き仕上げを行う。磨き仕上げは、いわゆる塗りっぱなし仕上げのてりを取った上品な仕上げを目的として行うものである。

b.洋間の塗装

 塗装の部位に応じて、透明、不透明の塗装がおのおの施工される。つくり付け家具や入口扉などの素地は、チーク、ケヤキ、タモなどの高級の突き板面で、つやを調整して透明仕上げを行う。

 各種塗料の塗装仕様は、JASS 18の「木質系素地面の塗装」を参照すればよい。不透明塗装は一般に、合成樹脂ペイント塗りが用いられるが、高級仕上げには、フタル酸樹脂、ラッカーエナメル仕上げが適用される。塗付けは、はけ塗りよりも吹付け仕上げが一般的である。高級仕上げでは、標準的なものより、一段と質感に優れた美しさを求められる。塗り工程で下塗りから中塗りまでの下地層形成の工程がポイントで、研磨作業を含む手数のかかる仕事である。