3.ローラブラシ塗り

3.ローラブラシ塗り

 ローラブラシ塗りは、ローラブラシに塗料を含ませ、回転させながら塗装する工法で、屋根や床、天井、壁などの広い平らな面の施工が能率的に行え、作業性も大変優れた塗装方法である。はけ塗りと違って厚膜を形成する塗材の塗装も容易で、ローラブラシの選択によっては壁面に連続した模様付けができ、立体感のある塗装が行えるなどの特徴がある。

(1)ローラブラシの構成

 ローラブラシは、ローラハンドルの部分とカバーから成り立つ。

 カバーは、はけの毛の部分に相当し、ローラブラシの性能上、最も大切な部分である。カバーとコアとナップによって構成されている。

(2)素材の特性とローラブラシの種類

 ナップの素材は主として、繊維(純毛、モヘア、合成繊維)、多孔性発泡体(スポンジ状化学製品)などである。繊維の組み合わせ、長短、織り方、発泡体の基材、気泡の大小、処理の方法によって、それぞれ特色のあるローラブラシとなる。

(3)ローラブラシの塗装方法

 ローラブラシ塗りは、ローラブラシに塗料を均一になじませることから始める。ローラにごみなどがついていたら丁寧に取り除き、塗料を十分含ませ、ローラトレイや専用ネット、あるいは新聞紙やベニヤ板上で転がす。ローラに気泡やごみが残っていると、ピンホールができたり、ゴミが付いたりして美しい塗膜が得られない。

 塗装のコツは塗面に平均に塗料を配る要領で、ゆっくり大きく作業を行うことである。ローラブラシに含ませた塗料は、塗り切ってからまた含ませる。乾きの遅い塗料では、ローラ幅に合わせ一定幅で送り、W塗り又は配り塗りを行い、その後、ならし、仕上げの要領で塗膜均一になるように塗る。

 ローラ塗装の場合、ローラマーク(はけ塗装におけるはけ目)が均一になるように操作し、ローラ継ぎ部が目立たないようにする。ローラを均一な力で回転させると塗りむらが少なく、作業性が向上する。

 

(4)使用後の手入れ

 ローラブラシは、はけと違って様々な部品によって組み立てられている。このため、各部品ごとの手入れ、清掃、修繕の及び正しい組立てが手入れ法のすべてであり、それを理解する必要がある。

a.カバーの手入れ

①ローラクリーナー(ローラ用へら)を使用して、ローラに付着している塗料を塗料容器の中にしごき落とす。

②本体からカバーを外し、洗い容器に移す。使用塗料が油性調合ペイントや合成樹脂エナメルの場合には、それぞれのシンナーで、合成樹脂エマルション塗料の場合には、水でよく洗って塗料をナップの中から十分に除去する。引き続いて、使用する場合には、クリーナーでよくしごきだしを行い、軽く洗って水の中につけておく。

③溶剤形塗料を使用したローラブラシは、シンナーの洗い、温水せっけん水または水で洗い、ナップを変質させないようにする。作業を続行する場合は、ここまで行う必要はない。

④洗浄したカバーはナップの中に含まれている水分をウエスなどで十分にふき取り、直射日光を避けて陰干しする。ナップに癖がつかないように、立てて保管しなければならない。

2.はけ塗り

2.はけ塗り

 はけ塗りは、古くから行われてきた塗装方法で、どのような製品でも自由に塗装できるという特徴を持つが、熟練した技能がなければ美しく仕上げることはできない。

(1)はけの選び方

 はけは用途によって毛質、形状が異なるため、塗る材料によって選択することが大切である。また、はけを選ぶ場合、次のことに注意する。

 ①毛質がそろっていること。

 ②切れ毛のないこと。

 ③毛の植えてある部分の締め具合が完全で、脱毛のないこと。

 ④手触りがよく、水を含ませて振っても、毛先が割れないこと。

 

(2)はけの運び方

 塗料をはけで被塗物に塗る作業は、次の3段階に分けられる。

 ①塗料を配る作業(塗付け)

 ②塗料を平均にならす作業(ならし)

 ③はけ目を通す作業(むら切り)

 これらの作業は、塗料の流動性(粘度)や揮発速度などに十分注意して行わなければならない。

a.乾燥の遅い塗料のはけ塗りの場合

 (a)塗料の含ませ方

 塗料(油性ペイントなど)をはけの毛先から毛丈の2/3ぐらいまで含ませ、容器の内側で毛先を軽くたたき、塗料がたれない程度まで、はけに含まれている塗料を取り除く。

 (b)塗料の配り方(塗付け)

 水平面の場合は左右に配るのが原則である。垂直面でははけを下から上へと一はけ(1往復)ごとに塗料を配る。広い面積の場合は、約80を一塗り区分として配り、長短がある場合は、長手の方向に配るのがよい。

 (c)塗料のならし方

 配りの方向とほぼ直角に、塗料を含まないはけで均一に配った塗料を広げる。もし、この際塗料が不足しているときは、塗料を配り、さらにならしを行う。

 (d)塗料のむら切り方

 最後に、均一な塗膜にするために、また、はけ目を整えるために、むら切りを行う。塗料をよくしごいたはけで、隅から隅まで平行にはけ目を通す作業である。途中で、はけ継ぎのないようにしなければならない。高級仕上げの場合には、むら切りばけと称する平ばけを用いることもある。

 このように、乾燥の遅い塗料の場合は、各段階に分けて作業を行うことができる。

b.乾燥の早い塗料のはけの使い方

 (a)塗料のふくませ方

 油性ペイントの時と同じように、毛丈の約2/3まで塗料を含ませる。次に、容器の淵や容器に渡した棒で軽くしごき、塗料が垂れない状態にする。

 (b)塗料の配り、ならし、むら切り

 溶剤の揮発が早いので、配り、ならし、むら切りを別々にやっているとよい仕上がりにならない。これらを別々にやらずに、同一方向にはけを動かし、一はけごとに仕上げていく。また、塗り継ぎ、はけ塗り中に生じる気泡を消すことも同時に行う。

 

(3)はけ塗り順序と注意点

 はけで塗装をするには、被塗物の大きさ、構造などによって塗る順序が異なってくる。

 一般に、はけ塗りの順序と注意点は、次のとおりである。

 ①塗りにくいところから始める。

 ②接合部は通し方向にはけを使う。

 ③下塗りは塗膜の厚さをそろえる。

 ④中塗り、上塗りは、仕上がりを前提にしてはけを使う。

 ⑤塗料の粘度に合う毛質を選ぶ。

 ⑥同じ毛でも毛丈の長いものは、短いものより低い粘度の塗料に使うとよい。

 ⑦はけに加える力が強すぎると、はけ目が目立ちすぎることがある。

 ⑧塗り分けするときは、塗料の含みを少なめにし、呼吸を整え、ひじと肩で引くようにする。

 ⑨箱形の隅やへこんだ部分などを塗るときは、毛の弾力性を利用し、毛先を使用する。

 ⑩はけは、はけの重心をもつ。そのほうが疲れが少なく能率が上がる。

 ⑪一般に、毛先の摩耗は中央が激しい。

 毛先が水平にそろっていなければ、きれいな仕上げは望めないので、毛先の摩耗が平均になるように、はけの運びを工夫しなければならない。

 

(4)はけの取扱い方と手入れの仕方

●新しいはけを使用する場合

 ①まず毛についている防虫粉、灰分などを取り除く。

 ②はけに塗料を付け、板の上でもみ出しを行い、抜け毛を取る。指先であらかじめ取れそうなものは取っておく。

 ③毛が抜けないように焼きごてではけの頭を焼き固める。あるいはセラニックニスなどを塗っておく。

 ④新しいはけは、はじめ下塗り、中塗りなどに使用して毛先の両面が少し摩耗し、はけが塗料に十分になじんできてから上塗りに使う。

●使用したはけを手入れする場合

 ①油性塗料に使うはけは、毛をウエスなどで巻き、1週間ぐらいボイル油かあまに油の中につけておく。

 ②油性ペイントなどの色替えをする場合、はけをそのつど溶剤できれいに洗ってから使用するのでは時間がかかるので、前の塗料をへらでよくしごき落とし、次に塗る塗料をはけに含ませ、定盤の上で突出しを行う。この作業を何回か繰り返す。時間的にロスが少なく、かつ材料の節約にもなる。

 ③使用したはけは、塗料容器の縁でよくしごき、はけから塗料を出す。続いて定盤の上で、木べらの毛のつけ根から毛先へ向けて数回しごき、はけの表裏から塗料を突き出す。また、はけの側面からも同様に行う。

 ④はけは、用途の応じて適当な容器に入れて保管する。このとき、容器の底にはけ先が触れないようにすることが大切である。ラッカーなどの揮発性塗料に使ったはけは、密閉した容器の底にラッカーシンナーを含んだ布を置いて保管する。

 ⑤油性ペイントなどに用いたはけを、作業の関係上、短期間保管するときは、木べらを用いて、はけに含まれている塗料を定盤の上でよくしごいて突き出し、はけが乾かないように水につける。次に使用するときは、水をよくしごいてから使用する。

 ⑥水性ペイントの場合は、使用後、はけをよく洗浄しないと塗料が毛の中で固まり、使えなくなるおそれがあるため、水に1日ぐらいつけておく。次に水をよく切り、乾燥させて保管する。

 ⑦合成樹脂系の塗料を用いたはけの場合は、それぞれの溶剤でよく洗浄して保管する。

1.塗装用工具類

1.塗装用工具類

(1)はけ

 はけは、流動性のある塗料を被塗物の表面に配り、平らに薄く塗り広げる工具である。ほかの付属工具がなくても、塗装ができる工具である。

a 毛の種類

はけに用いる毛は、次のような要素を満たすものがよい。

 ①塗料の含みがよい。

 ②塗料が流れ落ちない。

 ③はけ目が立ちにくい。

 ④弾力性がある。

毛の種類とその特徴は次のとおりである。

 (a)ぶた毛

 油性ワニス、油性ペイントなどに使われる。

 (b)うま毛

 塗料の含みがよく、腰が強く、油性ペイント、油性ワニスなどに使われる。

 (c)ひつじ毛

 毛に凹凸があって、塗料の含みがよく、主にラッカーばけ用に、また水性ペイント、のりばけ用に使われる。

 (d)やぎ毛

 毛質は軟らかく、ラッカー、水性ペイント、ラックニスばけ用に使われる。

 (e)たぬき毛

 毛先が軟らかく、弾力性があって腰が強く、素直で塗料の含みもよく、はけ用の毛としては最高級品である。主に筆用に使われる。

 (f)人毛

 毛質は固く、腰が強い。漆やカシュー塗料のはけ用である。

 (g)その他

 天然の毛に対して、合成繊維(ナイロン、酢酸繊維素など)のものがある。薬品塗付用に使われているが、近年建築塗装では多く使われるようになった。

b はけの種類

 (a)形状によるはけの種類

 ①ずんどうばけ

 油性ペイントなど、高粘度の塗料を広い面積に塗るのに使用する。

 ②すじかいばけ

 隅やくぼんだ部分を塗るのに使用する。

 ③平ばけ

 平らな面に粘度の低い塗料を塗るときに使用する。

 ④丸ばけ

 すんどうばけと同じく、粘度の高い塗料を塗るのに使用する。

 

(b)塗装別によはけの種類

①油性ペイントばけ

 塗料の粘度が高いものに使用し、毛質は弾力性に富む。一般にうま毛を使用し、はけの形状には、ずんどう、すじかいなどがある。

②油性ワニスばけ

 油性ペイントばけよりも毛の植え込みが薄手につくられている。粘度が高い塗料を塗る関係で腰の強いものを使用する。毛質はうま毛、ぶた毛、ひつじ毛などを用い、中でもぶた毛がいちばんよく、塗りむらが生じにくい。

③ラッカーばけ

 ラッカーは乾燥が早く、溶剤の蒸発に従って粘度が増してくる。塗り込みに当たっては、手早く塗付しなければならない。一般にこの種の塗料の用いられるはけは、毛質が軟らかく、適度の弾力性をもち、はけ先はやや長く、塗料の含みの良いことが要求される。ひつじ毛を使ったすじかいばけが多く用いられ、塗付面の大きさによって、毛幅の違ったものを選ぶ。

④セラックニスばけ

 セラックニスは塗料の粘度が低く、乾燥が早い。塗膜にはけ目を生じやすいため、毛の軟らかいものがよい。一般にやぎ毛が用いられる。

⑤水性ばけ

 水性ばけは、その名のとおり水を薄め液とする塗料の塗装に用いられる。主の壁面に塗布するときに使用される。塗料の含みがよく、はけ目の立ちにくい軟らかい毛質のものがよい。一般にひつじ毛が用いられる。

⑥その他

 化学繊維ばけは、油性ペイント用として鉄骨塗装に適しているだけでなく、反応硬化形水性塗料用に多く使われるようなった。化学繊維からできており、動物の毛の代用である。

 

(2)へら

 へらは、パテを素地面に平滑に塗り付けるために使用するほか、塗料を塗りつけたり、練ったりするために使用する。素地の形状や用途によって各種のへらがある。また、材質によって木べら、金べら、ゴムべらなどがある。

a 木べら

 一般に使用するものは市販されているが、漆工用などには現在でも自作している。自作は、ヒノキのまさ目板(30)を丹波(塗師用の小刀、刃渡り300㎜程度)を使用して所定の寸法に削って作成する。しかし近年刃物を用いて作るこの作業は危険なため、各寸法に加工されたものを使用することが多い。

b 金へら

 鋼製、ステンレス製で三角べら、柄付き金べらなどがあり、先端寸法も30,45,60,120,185,250㎜の各種がある。へら、の厚さにより腰の強いものと弱いものがあるが、一般に腰が強く弾力性があるので、パテの小分けや壁面へのパテ付けに使われる。

c ゴムべら

 ゴムべらの材質は耐溶剤性の合成ゴムで、主として曲面のパテ付けに使われる。また、塗料缶から塗料をかき出すのにも用いる。

d その他

 木べらの代用として、合成樹脂製のへらが使われるようになった。木べらと比べ、摩耗しにくい。

 

(3)ローラブラシ

 ローラブラシは、ローラカバーとハンドルで構成されている。ローラカバーは円筒状のプラスチック強化紙管、プラスチック成形管、木管などのコアに化学繊維、天然繊維などの背にをパイル状にしたものを巻き付けたものである。

 一般に建築、船舶、橋りょうなどの塗装に用いられ、ローラの寸法、形状、材質により、塗料の含み具合、塗り付け状態などが異なる。

 

(4)計測器具

 塗装作業に使用する計測器具には、次に示すものがある。

a 温湿度計

 (a)温度計

 水銀、アルコール、熱電対、サーミスタ式などがある。

 (b)湿度計

 乾湿球温度計(抵抗式、静電容量式)などがある。

b 計量計

 (a)容量計

 メスシリンダー、目盛付きビーカー、ビュレット、ピペットなどがある。

 (b)重量計

 台ばかり、上皿天びん、電子天びんなどの種類がある。

 近頃では、こうした温湿度計や計量計にデジタル式のものが普及しており、より使いやすくなっている。

 

(5)粘度計

 塗料の粘度の工程は、直接塗装作業に影響する重要な要素であるため、塗料の調合にあたっては、必ず粘度計を使用する。

 粘度計の種類には、回転粘度計、フローカップなどがある。一般には、カップ形(簡易粘度計)が比較的簡単に測定できるので広く利用されている。

 

(6)その他の測定器

 その他の測定器には次のようなものがある。

 ①pH測定器、pHコンパレータ―

 ②木材含水率測定器

 ③モルタル水分計

 ④塗膜厚測定器

 

(7)その他の工具

 a 塗装用小刀

 塗装用小刀を一般に丹波といい、主として木べらを作る場合に使用する。これには、そで形とささ形の2種類がある。

 b 塗膜はく離工具

 塗膜のはく離用としてスクレーパーや皮すきがある。

 c 定盤

 定盤には箱定盤と手定盤があり、箱定盤は箱の中に塗料用工具や材料を保管でき、盤上で塗料を調合したり、練り合わせたりする。手定盤には羽子板の形状をしている木製の定盤がある。

 d といし

 といしには合成と天然がある。天然といしには、大村といし、上野といしなどがある。刃物の研ぎ、下地、塗膜の研ぎに使われる。主として大村といしは、油性下地または漆さびのから研ぎに、上野といしは、下地の荒地パテ、オイルパテ、漆さび研ぎに用いられる。

 e 塗料用下げ缶

 下げ缶には、亜鉛引き鉄板(ブリキ)、合成樹脂(ポリエチレン)、ホーロー製などがある。油性ペイント、エマルション系の下げ缶にはブリキ、ポリエチレン製が、ワニス塗り用にはホーロー製、ポリエチレン製の容器が用いられる。ローラ塗りには、ローラ皿、ローラバケットや自家製の容器が用いられる。

 f 塗料ろ過用具

 ろ過用具には、ふるい、ペイントストレーナー、茶こし、吉野紙などがある。

 ふるいは黄銅、ステンレス製の網でできている。ふるいの目の粗さは、1インチ角にある目の数で表し、それをメッシュと呼んでいる。(1インチ=25.4㎜)

 g 養生用機材

 吹き付け塗りは、はけ塗りと違って塗装したい部分だけに塗装することはできない。そのため、塗料がついてはならないところを被覆し、塗料から保護する一連の作業を行う。これを養生するという。

 養生用機材は被服に用いる紙、ポリエチレンフィルムなどと、それを張り付けるマスキングテープからなる。養生作業の合理化に、テープディスペンサーと呼ばれる養生用機器が使用されている。

 養生作業は、仕上がり効果と作業の合理化に大きな影響を与える。

3.色合わせに影響を及ぼす要因

3.色合わせに影響を及ぼす要因

(1)照明条件

 白い紙を太陽光の下で見れば白い。しかし赤い照明の前では赤く見えるし、照明が青いときは青く見える。太陽光の下では赤い紙は、青緑色の波長成分を吸収するので赤く見え、青い光の下では黒く見える。このように我々が感じる色は、その物体に当たる光によって変化する。したがって色を見るときには、どんな光の下で見るかを明確にしておかなければならない。

 色を見るときの光源としては、JIS Z 8723:2000「表面色の視感比較方法」によって次の三つが定められている。

①自然昼光

②共通光源D65

③標準光源A

 常用光源D65は、昼光で照明される物体を人工照明下で比較する場合に用いるもので、現在はこれを用いることが多い。標準光源Aは、白熱電球で照明される物体の色を比較する場合に用いる。これらの光源がない場合は、その製品の使用される照明と同様の条件下で色合わせを行えばよい。例えば、外壁用塗料の調色は屋外で判定し、屋内用塗料の調色は、その部屋と同種の照明下で判定するとよい。

 

(2)つや(光沢感)

 調色作業では、つやの調整も大切な点である。つやあり塗料とつやなし塗料を混ぜると希望するつやが得られるが、塗装方法と膜厚によって、つやは微妙に変わるので、注意を要する。

 光線が塗膜表面に達すると、入射光の一部分は反射し、残りの光は塗膜内部に入る。つやあり塗膜表面はクリヤ層で平らであるため、表面での反射光は鏡面反射してつやを出す。一方、つやなし塗膜は、塗膜表面に顔料が突き出ているためでこぼこになる。この表面に入射した光は、乱反射して塗膜はつやなしとなる。表面反射光には色がないため、塗膜の色は白っぽく淡色に見える。したがって、つやに差のある2色を比色する場合には、表面を水で濡らして同じ表面状態にしてみるか、無色透明の鉱物油でぬらしてみるとよい。

 

(3)ぬれ色と乾き色

調色作業中の容器の中の塗料の色と、これを塗り広げた直後の色と、乾燥後の塗膜の色では大きく異なるのが普通である。したがって、調色作業中は何度か指先でこすって色を調べ、かなり近づいた時点で所定の作成方法により、乾燥塗膜の色を確かめなければならない。特に、つやなし塗料では注意を要する。

 

(4)塗装方法

 塗装方法が異なると、同じ塗料でも同じ色に仕上がらない。例えば、はけ塗りと吹付け塗りでは乾燥塗膜の色が異なり、特に静電塗装では、さらに色の差が大きくなる。これは、溶剤と顔料の電気特性が影響するからである。自動車の塗装などにみられるアルミニウム粉入りのメタリック塗料では、この傾向がさらに著しくなるので、塗料の薄め方、塗装方法、乾燥方法などを標準化しておかなければならない。

 

(5)塗装膜厚と下地

 隠ぺい力の小さい色の場合、通常の塗膜厚では、下地の色の影響を受けて所期の色が得られない。このような場合の塗り板は、見本色と同じ塗装工程によって作られなければならない。特に透明性のある有機系の黄色及び赤顔料では、下地を完全に隠ぺいする塗膜厚で比色するか、下地を同一条件にして膜厚を取り決めたうえで、色を比較する必要がる。

 

(6)乾燥方法

 塗装直後の塗膜の色は、それに続く乾燥方法によって異なった色に仕上がる。まず第一に、自然乾燥と加熱乾燥の差がある。次に前者では乾燥時間による差が、また、後者では温度と時間による差がある。このため、いろいろな簡便法はあるにしても、最終的な色を確認するには、その塗料の種類に応じて決められた標準的な乾燥方法によらなければならない。

2.原色の選定

2.原色の選定

(1)原色とは

 光学的にいう光の3原色とは赤、緑、青である。我々は物体で吸収されずに残って反射される光の色を物体色として認識する。それゆえ、色材の3原色とは光の3原色の補色である青緑(シアン)、赤紫(マゼンダ)、黄(イエロー)となる。これらをいろいろな割合で混合することで様々な色を作ることができる。

 顔料粒子を含有するエナメル塗膜に光が入射すると、光の経路は複雑になる。塗膜表面で反射する光もあれば、素地からの反射光もある。顔料表面に達した入射光のすべてが反射されるわけではない。顔料に吸収されたり、透過する光もある。反射・吸収・透過の割合が、顔料の光学的性質を支配する。顔料や染料が光の特定波長成分を吸収し、そのあと反射されて出てきた光の色がその物質の色となる。

 色材の3原色(青緑、赤紫、黄)のみでは塗料の調色に限界があるので、塗料の原色はもう少し数が多くなる。

 最も一般的に使われる原色は、無彩色としての白、黒と、有彩色としての赤、黄、赤さび、青、緑の7色である。

 調色作業の第一歩は、調色しようとする見本の色が、手持ちの原色の組み合わせで出だせるかどうかを確かめることである。慣れてくると、板の上で必要と思われる各原色を指先でこすり合わせて、だいたいの見当を付けることができる。一般に、彩度がよほど高くない限り、通常の色は白、黒、黄、赤さび、青、緑の6原色で、かなりのところまで調色できる。

 クリヤ(透明)塗膜には少し黄色っぽいものもあるように、同一顔料の原色からなる乾燥塗膜でもその色は、合成樹脂調合ペイントとアクリルラッカーでは異なる。また、同じ種類であっても、塗料メーカーによって原色の色が異なるのは、顔料の種類や分散粒子の大きさが異なるためである。

 

(2)原色の色数

 原色の数は、塗料の品種によって異なる。例えば、自動車補修用塗料は原色の数が著しく多いが、建築用のエマルション塗料はたんさい色が多いので、原色の数は少ない。

 調色は、できるだけ少ない数の原色を用いるほうが調色しやすく、色も濁らない。例えば、彩度の高い緑を調色するには、シアニングリーンを基調色として用いる。

 

(3)色あし

 原色を白で10~20倍に薄めた色合いをいう。濃彩色では問題ないが、淡彩色では同じ色系統の原色でも顔料の種類によって色がずれてくるので、原色の色あしを確かめることが必要である。また、メタリックカラーに使用する原色の色あしを確認する場合には、白の代わりにシルバーメタリックを用いることがある。

 

(4)色ののぼり

 調色した塗料を塗装すると、乾燥するに従って色味が濃くなってくる。例えば、エマルション塗料の調色においては、ぬれ色(乾燥前)と乾き色(乾燥後)とが異なる。この現象を色の「のぼり」という。エマルション塗料は、塗料状態ではポリマー粒子が分散しているから白く見え、乾燥すると粒子が融着して透明になる。

 このように、透明塗膜(ビヒクルポリマー)自体の色味が乾燥前後で変化する塗料があるので、色合わせは乾燥塗膜が基本になる。

 

(5)保色性

 初めの色のまま長い期間色が変わらないものを「保色性がよい」という。白、黒、黄、赤さび、青、緑の原色は濃彩でも淡彩でも保色性は良いので、原則的にこれを使うべきである。ただし、彩度の高い黄やあかはこの原色では得られないので、それぞれ特殊な原色を使わなければならない。この場合、原色としての保色性はよいが、少量混ぜると極端に悪くなるものがあるので注意を要する。