吹付け塗装

 塗料を霧のような小さい粒子にして、被塗物に吹き付ける方法を吹付け塗装と呼んでいる。現場では、エアスプレーやエアレススプレーが用いられるので、塗料を霧化する原理及びこれらの装置を取り扱うために必要な知識を記す。

 まず、塗料(液体)を霧化すると、どんな利点が得られるのだろうか。はけ塗り、ローラ塗り、吹付け塗りの作業性を比較する。

 吹付け塗りの利点は、複雑な形状をした被塗物に対して効率よく塗装できることにある。ただし、水あめのような高粘度の塗料は、霧化できないという欠点がある。塗料をきしゃくすれば塗料の粘度が下がりつ吹付けができるようになるが、塗料自体に高圧をかけてスプレーガン先端の細かいすき間から噴出させると、高粘度の塗料も霧化できる。塗料に高圧をかける吹付け塗装がエアレススプレーである。

 

塗装作業性の比較

  はけ塗り ローラ塗り 吹付け塗り
平板に対する塗付け能力
複雑な形状をした被塗物に対する適正 ×
塗装面の肌
塗装可能な塗料の粘度

(注)(大又は優) ◎ > 〇 > △ > × (小又は劣)

1.装置の構成と霧化機構

 エアスプレー装置は、基本的にスプレーガン、塗料容器、エアホース、空気清浄圧力調整器(エアトランスホーマー)、空気圧縮機(エアコンプレッサー)からなる。

 一方、エアレススプレーの装置は、ガン、塗料ホース、加圧用ポンプ(高圧塗料ポンプ)からなる。

 塗料に高い圧力を加えるポンプには、プランジャーとダイアフラムポンプの2種類が使用されている。プランジャーポンプを作動させるにはコンプレッサーが必要であるが、ダイアフラムポンプは電動モーターで作動させるため、装置がコンパクトになる。建設塗装現場では、ダイアフラム式の装置が多く用いられている。

(1)エアスプレー

 モルタルガンやリシンガンはエアスプレーに属するが、一般に用いるスプレーガンとは外観も大いに異なっている。

 エアスプレーにおいて液体が霧になるのは、霧吹きと同じ原理である。すなわち、液体と空気を混合させると霧になる。液体に対する空気量が多くなるほど、細かな霧の微粒子が得られる。塗料を微粒化するほど、塗装面はより鏡のように平滑に仕上がる。

 塗料と空気をガンの内部で混合する方式(内部混合式ガン)よりも外部で混合する方式(外部混合式)のほうが、空気/塗料の混合比を大きくすることができ、より小さな微粒子を得ることができる。

a 内部混合式

 モルタルガン、タイルガンは内部混合式であり、空気は塗料の微粒子化に機能する必要がなく、塗料を被塗物に運搬する役目さえすればよい。それゆえ、外部混合式ガンによるエアスプレーとは塗り肌が本質的に異なる。壁面に模様を付けるには、大きな粒子の状態で塗着させればよく、用いる塗料もペースト状の高粘度のものである。これらのガンは特殊ガンとして分類されることがおおい。

 一般に空気使用量は、30~150/分で、エアコンプレッサーは1馬力あれば使用できる。ガンの先端に付けるノズルは、口径の大きさによって数種類用意されており、吹付け材の種類や模様によって使い分けられる。口径4~8㎜くらいまでがよく用いられる。

b 外部混合式

 一般にいうエアスプレーガンとは外部混合式ガンである。ガンには塗料と空気の取入口が別々に付いており、それぞれ塗料ニップル、空気ニップルと呼ばれている。さらに、入ってきた圧縮空気を流したりと止めたりする空気弁と、塗料をON、OFFするニードル弁、塗料を霧化する空気キャップから成り立っている。

 スプレー時の空気量を調整したいときには、空気ニップルの横にあるねじを回せばよい。通常は全開状態になっており、空気弁のところまで常に空気がきている。空気弁の開閉は引き金の作動により行う。引き金を引くと、霧を作る空気が流れ込む。さらに引き金を引くと塗料のON、OFFを担当するニードル弁が後方に押し下げられ、塗料ノズルより塗料が噴出する。

 塗料噴出量調節装置は、このニードル弁の押下げ寸法を調節することによって、噴出量を加減する。時計方向に回して閉め込むと、引き金を引いても空気しか出てこない。引き金の作動により、必ず空気の次に塗料が出てくる機構になっている。これは、塗料が先に出てしまうと、霧化されない塗料が被塗物についてしまい、塗面不良になるのを防ぐためである。

 空気キャップによい吹付けパターンを得るための工夫がされており、塗料は空気キャップの外観で空気と混合して霧になる。

 空気キャップには中心空気穴、側面空気穴(角穴)及び補助空気穴がる。中心空気穴は主空気穴であり、塗料を吸引したり、霧化したり、また被塗物まで運ぶ働きをする。側面空気穴は、この穴から噴出する圧縮空気で、スプレーパターンを丸形からだ円に変形させる。側面空気を直接、中心空気及び塗料に当てると、パターンはだ円になりきらなかったり、中央部が割れたりして不定形になる。補助空気穴から噴出する空気がパターン形状を安定化させ、さらに霧化粒子の大きさを均一化させる役目をする。

 スプレーパターン調節ねじの回転によって、側面空気穴から噴出する空気量が変わる。閉め込むと側面空気は出なくなるのでパターンが丸形になるが、全開にすると多量の空気が出るので大きなだ円形のパターンが形成される。

 

(2)低圧スプレーガン

 塗料の付着量(塗着率)を増大させることによって溶剤の揮発量を削減したガンで、地球環境を守るために考案された塗装機器の一つである。

 ガン入り口圧力は、従来タイプと同じく約0.4MPa(4kgf/)であるが、空気キャップには多数の穴があけられている。そのため、空気キャップ内の霧化圧力は低くなる。一般に霧化圧力を低くすると霧化粒子が大きくなる傾向にあるが、これは空気を多量に流すことによって、霧化粒子を大きくしない方式のガンである。被塗物との衝突時に及ぼす霧化粒子の圧力は低くなるので、跳返りが減少し塗着率が高まる。最近、内部混合と外部混合との2段階霧化方式を採用して、空気量を減らす方式のガンも市販されている。

 

(3)エアレススプレー

 エアスプレーが空気と塗料を混合させて霧化するのに対し、エアレススプレーは空気を使わないで霧化する塗装機器である。

 水道のホースで水まきをするとき、水道のコックを全開にし、ホースの先端を徐々に小さくしていくと、水は次第に勢いよく噴出し、ついには霧状となる。エアレス塗装機はこの原理を応用し、水道水の代わりに塗料を霧化させたものである。

 一般家庭の水道水の水圧は(0.2MPa/)程度であり、この程度の圧力では粘性のある塗料を微粒子化することができない。そこで、塗料用高圧ポンプを使用して液体圧力を10~30MPa(100~300kgf/)に高めるとともに、ホース出口を小さくつぶすものとしてノズルチップを付け、出口の穴径を0.1㎜以下にしてある。

a.ダイアフラムポンプ

 建築塗装では水性塗料が多く、移動が多いことから、エアコンプレッサーのいらないダイアフラムポンプを用いた塗装機が使用される。

 ダイアフラムポンプは、ピストンの往復運動によって生じた油圧によりダイアフラム板を上下動させる機構である。ダイアフラムの下降で塗料を吸い込み、上昇で排出する。プランジャーポンプと異なり、1秒間に25~30回上下動する。

 ダイアフラム板には、高圧で耐溶剤性が要求されるため、硬質ナイロンが使用されている。動力源が電動モーター化エンジンであるため、高圧になった時のモーター制御が必要となる。一般には、設定圧力以上に上昇するのを防ぐため、調圧弁により油圧圧力を逃す機構を採用している。

b.高圧塗料ホース

 高圧塗料ホースは、ポンプで圧縮された高圧塗料をエアレススプレーガンに送るためのホースで、いっぱんには硬質ナイロン材が使用されている。また、高圧によるホースの破損を防ぐために、ナイロンホースの外皮にステンレス線や鋼線を編み上げてある(アース線も兼ねる)。そのため、エアスプレーガンの塗料ホースに比べて安全性は向上するが、作業性、柔軟性が悪い。

c.エアレススプレーガン

 ポンプ、ホースと送られてきた高圧塗料を受け、ノズルチップを通じて被塗物を塗装するもので、特別な調節機構はない。塗料の開閉を行うニードル弁機構があるだけである。さらに、作業性の面から、ユニバーサルジョイント、引き金を引いたままにできる機構、危険防止から手が直接ノズルチップに触れないためのハンドガード、スプレー時以外は誤って引き金を引かないためのセーフティーロックが設けられている。

d.ノズルチップ

 ノズルチップの先端部は超硬合金で作られ、塗料による摩耗を防いでいる。先端はだ円形の穴となっており、その形状のままだ円のスプレーパターンが形成される。チップ先端から噴出された塗料は、初めは液体のフィルム状に飛び出し、大気と衝突することによって次第に細かい粒子となる。

 塗料によっては、スプレーパターンの両端に粗い粒子が出るテール現象が発生する。テールノズルチップ内部での塗料の流れの不均一により生じる。両端から余分な塗料が出て、塗り肌が荒れる。エアレスの短所であるテールの発生要因は、次のとおりである。

 ①塗料加圧圧力が低い。

 ②塗料の粘度が高い。

 ③塗料の比重が高い(さび止め塗料のように、顔料分の多い塗料に発生しやすい)。

e.エアレス塗装機の特徴

 ①エアスプレーに比べ塗料の飛散が少ないため、衛生的に作業ができる。

 ②高粘度塗料の塗装ができるので溶剤が少なくて済み、厚塗りが可能である。

 ③ポンプの種類が多いので、被塗物や使用塗料によって機種選定ができ、最適塗装が可能である。

 ④塗り幅の形は、山形でないため、塗り重ねパターン幅の1/4~1/5程度とする(エアスプレーでは、パターン幅の1/2~1/3程度を塗り重ねる)。

f.エアレスの使用上の注意

 液圧が高いため、取扱を誤ると非常に危険であり、人命を左右する事故となる場合があるので、十分に注意する必要がある。

 ①一度に高圧力まで上昇させずに、低圧にて各接続部の塗料漏れを確認する。

 ②ポンプの最高使用圧力を確認し、それ以上に圧力を上げない。

 ③ポンプは空運転させない。

 ④人体、特に、露出した顔や皮膚に向けて塗料を噴射してはいけない。高圧のため、皮膚に穴が開いたり、失明の危険が生じる。またノズルの先に手を出して圧力を確かめるようなことも絶対してはいけない。このことで手に重要を負った例がある。

 ⑤ポンプは必ず接地する。また、被塗物もアースを取り、発生した静電気をためない。高圧で噴射された塗料が空気と衝突すると静電気を帯び、ガン本体も帯電し、スパークして引火する危険がある。ポンプを接地すれば、ガンに接続する塗料ホースは導電体であるから、静電気を逃すことができる。

2.エアスプレーガンの操作

浮きつけの基本条件は吹付け距離、運行速度、塗り重ねの三つである。

(1)吹付け距離

 被塗物とスプレーガンの距離(吹付け距離)は、一般に、大型スプレーガンの場合20~25㎝、小型の場合15~20㎝程度とする。

 吹付け距離が近すぎると塗膜が厚くなり、流れる。反対に、遠すぎると塗料が飛散して塗膜が薄くなり、塗料の損失が多くなる。また、乾燥の早い塗料を遠くから吹き付けると、塗面がざらつき、塗装面の光沢がなくなる。

(2)スプレーガンの運行

 スプレーガンは、被塗物に対して直角に保持し、吹付け距離を一定に保つように運行する。スプレーガンを傾けたり円弧状に動かすと、膜厚が不均等になる。運行速度は、30~60㎝/秒程度とし、あまり早すぎると塗膜が薄くなり、遅すぎると流れを生じる。

(3)塗重ね

 均一な膜厚とよい仕上がり面を得るためには、吹付けたパターン幅をある程度重ねることが必要である。塗り重ねの目安は、パターン幅の1/2程度がよい。吹付けたパターンを先端にノズルの中心がくるように、ガンを平行移動させていくと、パターンの約1/2が重なり、均一な膜厚を得やすい。

 塗重ねで最も重要な点は、作業者が絶えず塗装面を見ながら均一な塗膜、肌ができていることを確認することである。

 また、各部や水平面に対する吹付け操作は、最初に端を塗り、次に、オーバースプレーの霧がすでに塗った面に付着して肌荒れしないように、手前から吹き付けていく。

 入隅部の吹付け方法は、次のように行う。

 最初に周囲を塗布した後、左右の面ごとに分けて吹付ける。内側角に向かって吹付けると、塗料粒子が跳ね返って付着せず、膜厚が不均一になりやすい。

(4)スプレーガンの手入れ

a 使用直後

 ①洗浄液のみをスプレーし、塗料カップ及び塗料の通路を洗浄する。

 ②空気キャップの先端部をブラシで洗浄する。

 ③空気キャプをはずし、塗料ノズルをブラシで洗浄する。

 ④空気キャップを洗浄する。

b 定期的(数か月~6カ月ごと)

 ①先端部を分解し、塗料ノズルと空気キャップの穴を洗浄する。

 ②塗料カップと接続している塗料通路に付着している塗料をよく取り除く。

 ③塗料噴出量を調節するねじを緩めて分解し、ニードルの洗浄およびニードル弁パッキンを点検したり、ねじ部に注油する。

3.各種スプレーガン

(1)エアブラシ

 写真、人形、絵画、ポスター、車等の美術工芸用のスプレーガンとして使われている。このガンの特徴は、塗料を高微粒化させることよりも、細かい均一な線が連続的に引けることにある。筆と定規を使う代わりに用いられるガンがエアブラシである。スプレーガンの形状が筆の形になっているのは、筆の感覚で吹付けられることと、吹付け面積が非常に小さいからである。エアブラシの種類は、塗料供給方式により重力式と吸上げ式に分けられる。基本機構はエアスプレーガンと同じであり、塗料と空気を混合して霧にしている。

(2)長首スプレーガン

 長首スプレーガンは、普通のスプレーガンでは塗装が困難な、ガソリンタンクの内面や、手の入らない狭いところなどに適する。首の長さは、150~500㎜であるが、先端部分は必要に応じて45度や90度に曲げられているものがある。

(3)乱糸スプレーガン

 塗料を微粒化せずに糸状に噴射し、圧縮空気の流れによって塗料を糸状に振動させて塗るもので、主に工芸品の用いられる。空気キャップの交換によって、梨地、ぼかしなどの模様をつくったり、また、塗料粘度、空気圧、吹付け距離を変えると模様に変化をもたせることができる。

4.空気圧縮機(エアコンプレッサー)

 汎用タイプの空気圧縮機は、ピストンの上下運動によって空気を圧縮している。騒音や振動が大きいため、ピストンの代わりにスクリュー回転によって圧縮空気をつくり出すスクリュー形空気圧縮機や、スクロール式などもある。

 外気を取り入れて、空気タンクに圧縮貯蔵する。ピストン式では、空気を次のように圧縮する。

①ピストンが下死点に向かうと、吸込み弁が開き、空気が入る。

②上死点に進むと、吸込み弁が閉じ、空気を圧縮する。

③排出口の圧縮以上になると、排出弁が開き始め、圧縮された空気は空気タンクに送られる。

④次に、下死点に向かう位置になると、排出弁が閉じ、吸込み弁が開き始める。

⑤①~④の工程を繰り返す。

 

(1)構造

 圧縮空気を作る本体、圧縮空気をためる空気タンク、圧縮空気中の油や水分を除去して圧力を一定とする空気清浄圧力調整器、本体を動かす電動機、圧力の範囲を一定にする制御装置などで構成されている。

a 本体

 本体はピストンの径と行程により大きさが決まり、排出圧力と回転数により所要動力が定められている。また、本体には、クランク軸、連接棒、ピストン、シリンダ、シリンダヘッド、吸・排気弁などがあり、内燃機関と類似している。

b 空気タンク

 ピストンの往復運動によって圧縮された空気は、温度が高く圧力の工程が著しいため、これを直接塗装に使用することはできない。いったん空気タンクに貯蔵して冷却したものを使用する。また空気タンクは空気の脈動防止にも役立っている。

c 空気清浄圧力調整器(エアトランスホーマー)

 圧縮機から空気タンクに送られる圧縮空気中には、微量の油分やごみ、ほこりなどが含まれている。

 排気弁通過後の圧縮空気は100~150℃の高温になり、空気タンクにたまった時でも、外気温以上の温度にある。圧縮を中止して放置すると、圧縮空気が冷える。その結果、圧縮空気中の水蒸気がタンク壁面で結露し、液体(水)になり、タンクの下部にたまる。タンクについているドレンバルブを開けると、水が出てくる。水分を含んだ空気を使用すると、塗装面にはじきやピンホールなどの欠陥が発生しやすい。

 空気清浄圧力調整器の働きは、次の二つである。

 ①圧縮空気中の水分、油分、ごみなどの除去

 ②圧力の調整

d 電動機

 本体の大きさにより、0.4~2.2kWの範囲の電動機が多く使用される。

 また、最高使用圧力と回転数により、電動機の馬力の1.2倍以上の内燃機関を取り付ける必要がある。

e 自動アンローダ

 自動運転制御の一方法で、空気圧力が決められた圧力になると吸気弁が開放され、無負荷運転とするものである。

 このほか、自動的に運転を停止する圧力スイッチ制御もよく使われるが、反応圧力範囲が0.15~0.2MPaであるため、空気タンクが大きく、電動機の出力も大きくないと効果が少ないので、0.7kW以下ではあまり用いられない。空気使用料に応じて運転状態を自動制御する装置などもある。


(2)操作

 操作に当たっては、次の点に注意しなければならない。

①オイルが規定量入っているかどうかを調べ、不足していれば補充する。

②アンローダ又はリフターを働かせて、電動機の始動動力を軽減させ、スイッチを入れる。リフターは、つまみを下げて無負荷状態にする。また、アンローダは、ハンドルを右に回し、無負荷状態にする。

③圧縮機の回転方向が矢印とあっているかを確認し、逆の場合は配線を変える。単層モーターは、モーター銘板を見て変更し、反発モーターはブラシの向きを変更する。三相モーターは、3本線のうち2本を入れ替える。

④圧縮機が回転を始めたら、負荷状態にして戻して圧縮を行う。

⑤停止するときも同じように無負荷にしてからスイッチを切る。

 

(3)空気圧縮機の保守

a 毎日点検する項目

①潤滑油の汚れ、量

②ドレンの排出

③圧縮開閉器、アンローダ、安全弁などの装置

④異常音、振動

b 毎月点検する項目

①吸込みろ過器のフィルター

②Vベルトのいたみ、緩み

③各締め付け部

 その他、3カ月から6カ月ごとに潤滑油の交換を行うことが望ましい。また、空気タンクの損傷の有無、ふたの締め付けボルトの摩耗の有無、管及び弁の損傷や摩耗の点検は毎年行うことが法令で義務付けられている。

5.静電スプレー

 私たちの周りにある物質は、同量の正・負の電荷をもち、普通の状態では電気的に中性(電荷量0)である。しかし、何らかの原因で物質が電子を放出したり、受け取った入りすると電荷のバランスが崩れ、その物質全体として正(プラス、?)又は負(マイナス、)に帯電する。例えば、プラスチック製の下敷きで髪の毛をこすると、摩擦によってプラスチック製の下敷きはに、髪の毛は?に帯電する。

 この現象をもとに、放電(スパーク)について考えてみよう。プラスチック製の下敷きがアース(接地)されている金属製のパイプ(導電体)に接続している場合は、プラスチック製の下敷きを摩擦しても電荷は直ぐに金属製のパイプを伝わってアース(地面)へと流れ、電荷は残ることなく、常の中性(電荷量0)になる。

 一方、プラスチック製の下敷きと金属製のパイプが接続していても、電気を通さない絶縁性(不良導電体)の手袋や靴などを身に着けている場合は、アース(地面)と絶縁されているため、プラスチック製の下敷きに帯電している電荷はアースへと流れず電荷はたまった状態(帯電)となっている。このようなプラスチック製の下敷きに、絶縁されていないほかの導電体(アースへと電荷が流れる状態)の物質を近づけるとその瞬間に放電(スパーク)する。湿度の低い冬期に私たちが静電気によって痛い経験をするのは、この現象と同じことが起きているからである。

 したがって、帯電防止手袋などをして金属製のパイプ(導電体)をもち、かつ通電性の良い靴を履き、さらには水で床を湿らせた導電状態の環境であれば、発生した電荷は人体を伝わってアース(地面)に流れるため放電(スパーク)の危険性はない。

 放電(スパーク)は一瞬であるが、このとき周囲に可燃性の溶剤蒸気がある一定濃度あると、それが点火源となって爆発を引き起こす。塗装作業は、引火性の塗料を取り扱うため、静電気をためないように作業場の物品はアースを確実の施しておくことが大切である。アース線を水道管につなげば大丈夫だと思いがちだが、水道管は途中から塩化ビニル製の継手に接続されていることが多く、アースされない危険性がある。

 

(1)原理

 帯電した塗料粒子を被塗物(アースされていること)まで運び、付着させる役目を静電気が果たす。そのためには、静電界を、塗料噴出口と被塗物間に形成させる機構が必要となる。装置の基本は次のようになる。

①交流(AC)を取り入れて、直流(DC)の高電圧を発生させる装置―高電圧発生器

②塗料噴出口がマイナス極に、被塗物がプラス?極になること。アースを完全に取ること。

③塗料を霧化させること。

 の高電圧(3~10万ボルト)によって電極部分の空気がイオン化され、このイオン化空気の部分が?の被塗物に吸引されるときに空気の流れをつくり出す。これをイオン風と呼び、塗料粒子はこのイオン化域でに帯電し、?極の被塗物に効率よく塗着する。

 

(2)特徴

 静電塗装は、金属製品の多量生産の塗装方法とし一般化している。その特徴は次の通りである。

a 長所

①塗着効率が高く、塗料が節約できる。

②安定した塗装のつきまわり性が得られ、作業工程、時間の短縮ができる。

b 短所

①エアスプレーに比べ、装置が効果である。(イニシャルコストが高い)

②プラスチック部品や成形物、などの絶縁性物質には、通電剤の塗布が必要となる。

③凹凸のある被塗物に対しては、均一な膜厚が得にくい。

④塗料の電気抵抗値を適正な範囲(0.3~2MΩ・m)に調整する必要がある。

 被塗物が凹凸の形態をしているとき、塗料粒子はエッジ部(角のある部分)に塗着しやすく、厚膜となるが、凹の隅には入りにくい。

 

(3)塗装方式の種類

 エアスプレー、エアレススプレーと同様に、塗料を霧化して被塗物に塗着させる方式が基本である。

 

(4)塗着効率に及ぼす塗料の要因

a 浮遊粒子の大きさ

 霧化されて飛び出してきた粒子は、前へ進もうとする運動エネルギーをもっている。この粒子を、硬式野球のボールと卓球のピンポン玉に例えると、大きくて重い硬式野球ボールは勢いよく遠くへ飛んでいこうとするが、軽くて小さいピンポン球は、すぐに運動エネルギーを失ってしまう。すなわち、粒子が小さいほど静電気力で吸着しやすい。

 また、微粒化した粒子の帯電は、表面帯電である。一定量の塗料をたくさんの微粒子にした場合と少ない微粒子にした場合とでは、全粒子の表面積は前者の方がはるかに大きいので、静電効果の差が生じる。

 したがって、塗料粒子が小さくなるほど塗着効率は高くのなるので、塗料の粘度をエアスプレーよりも低くする方がよい。

b シンナーの組成

 静電塗装においては、よい塗料を使うか否かが、仕上がりに大きな影響を及ぼす。前述したように、塗料粒子は小さく、かつ電荷量が大きいほど静電効果が高まる。塗料の電気抵抗値には適切な範囲が存在するため、通常は静電用シンナーを混合して、塗料の粘度と抵抗値を調整する。塗料の電気抵抗値が低いと、霧化粒子の電荷量が小さくなって、つきまわり性や膜厚の均一性などが悪くなる。シンナー中に含まれる溶剤の作用をまとめると、次のようになる。

(a)蒸発速度の遅い溶剤

 塗料中に占める蒸発しにくい溶剤(低速度溶剤)の含有量は、10~20%程度である。低速度溶剤は、塗料粒子の飛行中の乾燥速度を遅くするため、塗装効果が高まる。蒸発速度の速い溶剤が多いと、粒子の飛行中でも溶剤が蒸発してしまい、塗装面がウェット状態にならじドライ状態の塗膜形成となり、平滑な塗面が得られない。

(b)極性溶剤

 メタノールのアセトンは水とよく混合する。’似たもの同士はよく溶ける’といわれるように、水とよく混合する溶剤はその性質が水とよく似ており、極性溶剤と言われている。溶剤の極性が高いほど、電気抵抗値が低い。塗料の電気抵抗値が高い場合には、極性溶剤を添加するとよい。静電用シンナーには、極性溶剤と揮発を遅くする低速度溶剤が混合されている。

 電気抵抗値を測定するには、ペイントテスタを使用する。これは、1cmの間隔で1cm角の金属板が対向している電極板を塗料中に挿入して、その間の抵抗値を計測するものである。

 

(5)静電塗装機の取扱い

 静電塗装を行う場合に、最も注意しなければならないのは、静電気による火災である。この原因は、日常の管理不備によるところが大きい。

 スプレーガン、高電圧発生器、ケーブル、ホース、塗料容器、コンベアハンガー、作業者など、すべてのものに対してアースをとる。また、塗料ミスト付着により絶縁不良を起こすことを忘れてはならない。

 作業者は帯電防止手袋などを着用し、作業靴も通電性のある静電用作業靴を使用する。帯電量は物体の表面積に比例して増加するため、作業者が絶縁状態にあると身体全体に静電気がたまってしまう。これを知らずに、塗料汚れを落とそうとしてシンナー缶に触れると、その瞬間にスパークし、引火してしまう。

 最近の静電塗装機には、安全性に配慮した安全保護機能がついており、万一の場合には、高電圧を遮断したり、異常ブザーで知らせる機能となっているが、基本的な安全操作を決して忘れてはならない。

▲このページのトップに戻る