建築塗装における養生とは、被塗物又は周囲の物体が塗装する際にきずにならないように保護することと、塗料が付着してはならない周囲の物体を被覆して、周囲の汚染を防止する手段・方法のことである。広い意味では、塗料が塗膜になるまでに必要な補助的役割を含む場合もある。例えば、塗り分けて仕上げる場合は、マスキングの良否が塗装の出来を左右する。
(1)養生の目的
a 塗膜の保護
塗装作業者は、作業開始から終了まで、塗膜にきずが付いたり、汚れが付いたり、変色したり、光沢がなくなったりすることのないように、保護しなければならない。
また、塗装作業中であることや、塗装した建築物なり製品であることを知らせるための提示版表示等も、塗装面を保護するための養生の一つである。
b 塗装及び汚染防止
塗り込み工程以外の塗装作業でも、塗装面以外の周囲を汚染したり、きずを付けたりしないための養生が必要である。天井や高いところからの塗料のたればかりでなく、使用する水やじんあいは当然落下する。したがって、天井作業では床面の壁の一部、又は全部、室内の家具・棚類などを養生しておく。
また、ツートンカラー塗装(2色で仕上げる)では、その境目を特に注意してマスキングしなければならない。
吹付け塗装では、マスキング部の小さなすきまからでも塗料のミスとが入って、マスキングした面を汚しやすいので、すきまのない養生をする。
塗装作業では、被塗物あるいは周囲の物体の汚れ防止のため、塗装方法、被塗物の状態、周囲の状況、使用塗料を考え合わせ、必要な養生を決めて作業する必要がある。また、一般に養生作業は下から順に進める。
(2)マスキング(養生)材
建築塗装作業で使用されるマスキング材は、通常、マスキングテープ、養生紙、養生シートである。
a マスキングテープ
塗装作業の養生で一般に使われる粘着テープのことで、紙養生には欠かせない。マスキングテープは、テープの幅が9~30㎜くらいのものが一般に使用される。
マスキングテープは、その粘着剤が熱にあうと溶けやすい性質のものが多いので、涼しい場所に保管する。下記に気温の高いところに長期間放置するなどして変質したものや、巻きテープの側面が汚染されたものなどは、テープ巻きからきれいに外れず、斜めに裂けることが多い。
b 養生紙
身近にある養生紙は新聞紙である。新聞紙は経済的であり、また紙の大きさが取扱いに比較的便利である。しかし反面、水や塗料が浸透して思わぬ欠陥が生じたり、新聞紙を手で切った時などは、紙の繊維がごみとなって塗装中の塗膜に付着したりすることがあるので、最近はあまり使われなくなった。
市販されている塗装用養生紙は前述の問題点が解消されたものである。
c 養生シート
強じんで透明性のあるポリエチレンのシートが、養生に最も多く用いられている。これらのシートは、その幅も900~3600㎜にわたる多種類が用意され、かつ用途によってシートの厚みも0.1~0.5㎜のものがある。近年は養生テープ付きのものが多用されている。テープ幅15、30㎜程度、シート幅300、550、1100㎜程度が多い。
塗装作業によって汚染された養生シートを撤去するときには、汚染された面を内側に巻き取るように回収することが大切である。また、外部塗装工事における飛散防止用シートは、十分に固定しないと強風によって引きちぎられることがあるので、注意が必要である。
d ストリッパブルペイント
ストリッパブルペイントを養生に活用することも便利な方法である。ストリッパブルペイントには、溶剤形のものとエマルション形のものがある。
ストリッパブルペイントの活用範囲は、主に被塗物に装着された部品で、塗装後すぐにははがす必要のないもの、例えば、ガラス・合成樹脂製品などの汚染防止や、機械部品で塗装しない品物の養生に使用することができるが、建築塗装にはあまり用いられない。はけ塗り、スプレーが可能であるが、境界線をきれいに出す塗分け作業に不向きなことや、塗膜が破れやすいという欠点がある。また、溶剤系のストリッパブルペイントは、溶解や膨潤作用があり、既に塗られている塗膜の汚染防止には使用できない場合が多い。
e グリース
グリースによる養生も、機械関係に昔から用いられている方法で、良質のマスキング材が出現した今日でも一部に用いられている。機械部品の駆動部分など、製品として完成後に油を注入するような部分には、塗装後除去する手数が省けるので便利である、しかし汚れやすいので塗装効果や色彩を売り物にするような塗装品には、使用しないほうがよい。
f ゴム・磁石・その他
一般的な養生用具ではないが、簡単な塗分け用に薄板のゴム磁石を活用する方法もある。幅も目的に応じて制作可能なので便利である。注意することは、使用後付着した塗料をそのつど清掃しておかないと、磁石の利きが悪くなることである。
(3)養生の仕方
紙を使って養生する場合、テープ幅の半分を養生紙に張り、残りの半分を被塗物に粘着させるが、直線や精密な区画線は、テープだけを先に張り、その上に養生紙の付いたテープで養生していく。
テープは、塗料の流動性がなくなったら早めにはがすようにする。しかし早くはがし過ぎると、塗料が糸を引いたり、境界にたれが生じることがある。また、塗料が乾き過ぎてからはがすと、テープの幅以上に塗膜がはがれたり、境界線がジグザグになったりすることがある。