素地調整は、塗装が行われていない面(素地)を塗装できるようにするため行う作業で素地ごしらえとか塗り前と呼ばれることもある。

 素地調整に使用される用語で、JASS18では、次のように定義している。

素地 :いずれの塗装工程による行為も行われていない面。

下地 :素地に対して何らかの塗装工程による行為が行われて、次の工程の行為が行われようとしている面。

 素地調整 :素地に対して塗装に適するように行う処理。

 下地調整 :下地に対して塗装に適するように行う処理。

吸込み止め :素地への塗料の吸込みを少なくするための作業。

 パテかい :下地面のくぼみ、すきま、目違いなどの部分にパテを付けて平らにする作業。

 パテ付け :パテなどを下地前面に塗付け、表面の過剰なパテなどをしごきとるか、または、下地前面に塗付け、平らにする作業。

研磨 :素地、下地面を研磨材料で研ぐこと。

   節止め :木材の節や赤み部分または、やにが出やすい部分を専用塗料(ワニス)で塗装する作業。

化成皮膜処理:金属系素地表面を化学薬品で処理する操作および操作すること。

1.金属の素地調整

 金属の素地の表面には油脂、さび、汚れなどが付着している。これらを取り除かないで塗装すると、土師器や塗膜の付着不良が起こったり、塗装後短期間でさびが発生する。素地調整は塗膜の寿命に大きな影響を及ぼす最も重要な工程であり、塗装作業の基礎である。

 金属の素地調整は、さび落とし、脱脂、化成皮膜処理に大別できる。

(1)脱脂

 金属表面に付着している油類には、防せい油、潤滑油、切削油、焼入れ油などの鉱物油や植物油がある。例えば石油は鉱物油で、てんぷら油は植物油であり、両者の成分は大きく異なる。付着している油を取り除く作業を脱脂というが、油の成分が異なると脱脂方法も異なり、エンジンオイルのような鉱物油の除去には、焼いて取り去る、「から焼き法」や溶剤脱脂が有効で、汗や動・植物油(油脂)の除去にはアルカリ脱脂が有効である。

(2)さび落とし(脱せい)

 さびには、除去しやすいものと非常に除去しにくいものがある。鉄以外の金属さびは、大気中では比較的進行が緩慢であり、また除去することも容易である。しかし、鉄さびには、常温の大気中や水中などで生じる赤さび(酸化第二鉄)と、加熱加工などの製造過程で出きる黒皮(ミルスケール・四三酸化鉄)があり、赤さびは比較的除去しやすいが、黒皮は硬くてなかなか除去しにくい。

 黒皮は、均一な膜を形成している間は鉄鋼素地を保護する働きを持っているが、きずが付くと鉄鋼素地が腐食しやすくなるので、完全に除去することが望ましい。

 赤さびは、粗雑で付着性が乏しく、それが生じることによって、さらにその後のさびへの変化が早められるので、完全に除去しなければならない。

 さび落とし(脱せい)の方法には、物理的方法と化学的方法がある。物理的にさびを落とす作業をケレンと呼ぶが、語源は英語のクリーンからきている。ケレンにはいくつかのグレードがあり、その内容と工法が異なる。

化学的方法とは、酸又はアルカリ水溶液中に浸せきさせる方法である。鉄鋼材料には主に酸洗い法が用いられ、アルミニウムにはアルカリ処理が有効である。

 酸洗い法は、金属表面に存在するさびを酸によって溶解し、化学的に除去する方法であるが、酸が表面に残るため、次の工程である化成皮膜処理に悪影響を及ぼすなどの欠点もある。しかし、機械的な方法に比べて量産に向き、隅々まで脱せいでき、素材にひずみや表面の荒れを生じることも少ないので、最も有効で一般的な方法である。

 さび落とし作業によって、金属表面が活性化され、塗料の皮膜成分と金属表面の活性点との間にくっつく力が発生する。活性化した表面には空気中のあらゆる物質が吸着されるので、さび落とし後は速やかに塗装することが大切である。

(3)化成皮膜処理

 金属の表面を処理して耐食性を与え、いろいろな目的に適合させるための方法には多くの種類がある。その中で化成皮膜処理とは、化学的に金属表面を処理して、表面に保護能力を持つ酸化物や反応生成物をつくる処理をいい、その皮膜を化成皮膜という。

 塗装の素地調整として利用する目的は、金属素地表面に、できるだけ均一な層を形成することによって金属素地の防食性を高め、同時に塗料との付着性を向上させることにある。化成処理には、りん酸塩処理・クロメート処理、陽極酸化処理及びエッチングプライマー処理などの方法がある。

a.りん酸塩処理

 鉄鋼や亜鉛めっきの表面に不溶性のち密な結晶をもった、りん酸塩皮膜を形成させる化成処理である。塗装下地として耐食性、付着性の向上を図るのが目的であり、現在広く利用されている。

b.クロメート処理

 亜鉛めっきやアルミの活性な表面にクロメート皮膜を形成させる化成処理である。目的は、この処理を施すことによって金属表面を電気的に不良導体化し、塗膜の付着性と防食性を良好にすることにある。亜鉛めっきやステンレスの場合には主として塗付け形が使用される。

c.陽極酸化処理

 アルミニウムはそれ自体活性な金属で、空気中の酸素と結合して常に薄い酸化アルミニウム皮膜を生成し、アルミニウムの耐食性に大きく寄与している。この酸化皮膜を電気化学的に作って、より耐久性を向上させる化成処理が陽極酸化処理である。

d.エッチングプライマー処理

 大きい部材や現場で塗装する場合で、前記a,b,cのような浸せき、あるいはスプレー法による化成処理ができないときに、エッチングプライマーが用いられる。エッチングプライマーは化成処理を兼ねた表面処理塗料で、その効果も優れていることから多く使われている。

 化成処理には、下記の工程が採用されるが、表面処理の目的、素材の汚れ状態、要求される程度などによって工程を簡略化することも可能である。

【工程】 脱脂 → 水洗 → さび落とし → 水洗 → 調整 → 水洗 → 皮膜化成 → 後処理 → 水洗 → 乾燥

 処理方法には、はけ塗り法、浸せき法、スプレー法、蒸気処理法、ロールコート法などがあるが、一般的には、浸せき法やスプレー法が広く使用されている。処理方法は、処理物の形状や大きさ、生産規模、処理の程度などを考慮に入れて選択する必要がある。

2.木質系の素地調整

(1)木材とはどんな材料か

 木材の種類を分類すると、その細胞の構成上から針葉樹と広葉樹に大別される。

 針葉樹は常緑樹が多く、落葉樹の多い広葉樹に対して比較してやわらかいので、軟材と呼ばれている。広葉樹は組織的には道管と木繊維からなり、その道管の配列状態によって、環孔材(道管が年輪に沿って環状に配列)及び散孔材(道管が年輪内に点在)に分類されるものが多い。一方、針葉樹は組織的に道管がなく、仮道管と呼ばれる細胞からなる。

 建築用に使用される木材は、柔らかく加工しやすい針葉樹が多いが、最近では広葉樹も採用されるようになってきている。

 塗装面からみると、針葉樹にはエナメル仕上げ(不透明塗装仕上げ)、広葉樹にはクリヤ仕上げ(透明塗装仕上げ)をする場合が多い。

 木材には年輪があり、秋から冬にかけて形成される部分を晩材といい、細胞が小さく硬い木部を形成する。これに対し、春から夏にかけて形成される部分を早材といい細胞も大きく軟らかい。材面を分類すると、地面と水平方向に切断した面を木口面といい、髄心と年輪がある。木口面に対して直角方向に切断した場合を板目といい、このうち髄心を含めた位置で切断するとまさ目となる。まさ目と板目では収縮度が異なり、一般に板目にとった板は反りやすく、特に針葉樹ではまさ目を重視する。木材樹体の細胞組織の名称、及び塗装仕上げの見地から見た木材の特異性、塗装効果を支配する主な要因は、次の2つである。

a.木材の大きな収縮・膨張と塗膜の割れ

 木材を大気中に放置しておくと、大気中の温度と関係湿度に対して木材から出ていく水分量と、木材中に入っていく水分量が等しくなり、平衡状態を保つようになる。この時の木材の含水率を平衡含水率といい、我が国では平均14~16%である。例えば、木材は関係湿度が10%から90%になるにつれて木目及び木目直角方向とも約2.5%膨張する。この場合の木材の含水率は6%から17%に変化する。

 このように、木材は吸水と脱水によって膨張と収縮を繰り返し、木材に付着している塗膜は、この動きに追従できないと割れてしまう。

 塗膜の割れを、木材の塗膜の線膨張係数の比較から考えてみよう。ニトロセルロース(NC)ラッカー塗膜の線膨張係数は、木材の木目直角方向の最大値のそれと比較すると約2倍も大きいので、塗膜が割れることはない。むしろ低温になると、塗膜の方が木材よりも縮んでしまう。このとき、塗膜は木材に付着しているので引っ張られることになり、塗膜の引張り強度が破壊強度に達すると割れてしまう。そして、冷却速度が大きくなるほど塗膜は割れやすくなる。

b.塗膜の乾燥性、付着性を阻害する成分

 マツ材などは、松やに(ロジン)を含む。これは塗膜を透過しやすく、いつまでも部分的に塗膜表面がべとつくことがある。

 コクタン、ローズウッド、シタンなどは、タンニン分を多く含み、特にラジカル反応により硬化する不飽和ポリエステル樹脂及び紫外線硬化形塗料などは、硬化障害と付着不良を発生する。クスノキ在中の樟脳分は、ポリウレタン樹脂塗料の橋かけ反応を促進させるため、局部的な硬化収縮による塗膜のへこみや付着不良を生じやすい。したがって、これらの塗膜にはあらかじめポリウレタン樹脂系やに止めシーラーを使用して、これらの障害成分を止める必要がある。

 

(2)素地調整とその工程

 木材の持ち味を上手に引き出す目的で、素地調整が行われる。木材の対する塗装は、木目をいかすクリヤ(透明)仕上げとエナメル(不透明)仕上げとに大別できる。

 JASS18では、素地調整を1種と2種とに分け、1種の素地調整をクリヤ仕上げ用に、2種のそれをエナメル仕上げ用にしている。

 節が存在する素地には、やにが浸出するおそれがあるので、セラックニスか、やに止めシーラーを塗布する。セラックニスはアルコールのみに溶け、ほかの溶剤及びやにには溶けないので、次に塗られる塗料で侵されず、やに止め効果を発揮する。

3.壁面(セメント系素地)の素地調整

(1)素地の状態

 塗装の対象は、コンクリート構造物の打放しコンクリート面、モルタル仕上げ面、プラスター仕上げ面のほか、せっこうボード、ALCパネルなどの建材製品である。多くはセメント系、又はセメントを混合した素地で、それぞれ異なる特性をもつ。

 コンクリート、モルタルなどはアルカリ性であり、せっこうプラスターも作業性をよくするために石灰を配合するので、アルカリ性である。これらの材料は、施工時に大量の水を使用するため、一定期間、相当量の水分を含有する。この初期の含水率が高く、アルカリ性であることがコンクリートや塗壁類の大きな特徴である。

 現場施工のコンクリート打放し面は、レイタンス、型枠離型剤、油、ごみなど、塗装に障害となる付着物が多い。表面の平滑度も悪く、割れ、巣穴などの欠陥をもっている。なお、レイタンスとは、まだ固まらないモルタル又はコンクリートにおいて、水の上昇に伴って、その表面に浮かび出て沈殿した微細な物質をいう。

 一般に無機質系素地は多孔質で、吸水率も均一でない。

 工場製品の中には、そのままでは表面の強度が不足して、吹付け仕上げができない場合がある。壁面の素地ごしらえは、このような欠陥をよく知って行うことが必要である。

 素地調整作業は、特に水分(含水率)とアルカリ度をどこまで均一に調整できるかが重要で、塗装効果を左右する。

a 水分(含水率)

 コンクリートやモルタルの新設工事の場合、一般には、施工後3週間以上放置した後、塗装に入るのが適切とされている。これはコンクリートやモルタルの乾燥が3週間くらいで平衡状態になり、その含水率が8%前後となって、水分の塗膜に対する影響力がほとんどなくなるからである。

b アルカリ度

 新設のコンクリートやモルタルは強いアルカリ性を示し、pHは一般に12以上である。しかし、これらの強いアルカリ性も空気中の炭酸ガスと反応して、炭酸カルシウムとなって表面から徐々にアルカリ性を失ってくる。

 内部のアルカリ性物質は中和されるのに長時間を要し、また中性化または表面ほど均一には進まないため、局所に濃度の高いアルカリが残留しやすい。

 表面のアルカリ性が低下するには、水分と同様に3週間くらいかかる。そして、pHは8~10で安定化する。塗装は、pHが10以下で行うのが望ましい。pHの測定にはpH測定器を用いることが望ましい。簡易型でも近似値は測定可能である。

 

(2)素地調整の種別と工程

 JASS18による素地調整の種別には、1種、2種、3種の3種類がある。

 1種と2種の違いは、いわゆる全面パテと部分パテの違いである。2種の場合は部分パテであるため、パテ部と素地部との間の吸込みむらや、つやむらを生じることがある。

 3種は、素地の状態がそのまま仕上がりや付着性などに影響を与えてしまうことに留意する必要がある。さらに、1種と2種では、吸込み止めに使用するシーラーとパテの選択が重要である。

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