塗装作業は、屋外又は、それに近い条件下で行われることが多く、自然界の気象条件の影響を大きく受けながらの施工となる。特に、気温と湿度はよい塗膜を形成するために大きな影響を及ぼすので、適切に対処していく必要がある。気温・湿度のほかに風や海塩(塩素イオン)・酸性ガス(イオウ酸化物と窒素酸化物)なども塗装作業に影響を及ぼし、塗装欠陥を引き起こす。

注意すべき環境 注意事項
降雨時・高湿時
(湿度85%以上)
屋外では塗装ができない。
雨が直接かからない場所でも表面に結露しやすい金属面は
「かぶり」を生じ、白くぼけやすい。
屋内では加温・除湿を行えば塗装可能である。
早朝・夜間 金属面では露・霜など水分が付着しているため要注意。
屋外では気温の上昇を待つ。
高温時
(気温35℃以上)
塗膜に泡が生じやすく、性能・作業性が落ちる。
直射日光が当たらないよう日よけ養生を行う。
特に金属面は注意する。
低温時
(気温5℃以下)
硬化が遅くなり塗装間隔が長くなるので、加温が必要になる。
エマルション塗料では、最低造膜温度(メーカーによって異なる)
以下の場合、塗膜がぜい弱となる。
潮風が当たる
海浜地区
表面に塩分が付着し吸湿するため、塗膜はく離を生じる。
清水で洗いをかける必要がある。
強風時 塗料が飛び散る。じんあいが付着しやすい。
美観を要求される高級仕上げでは養生覆いを十分に行う必要が
ある。

1.よい塗装環境とは

 すべての塗料は高温になるほど早く乾燥する。一方、高湿度になるほど被塗面に水分が付着したり、塗装面からの溶剤蒸発に伴う温度低下により結露し、表面層に水が混入しやすくなる。塗料は塗装すると、被塗面によくぬれ(なじみ)、くっつき、丈夫な塗膜(固体)になるようにつくられた材料である。現場作業ではどんな環境下でも塗装ができ、同等な塗装効果を発揮する塗装条件範囲の広い塗料が必要となるが、このような万能塗料はまだない。よい塗装をするためには、その塗料に応じた適切な使い方をすることが大切である。

 塗装に適する気温と湿度の一般的な適正範囲として、塗装に適する気温と湿度はそれぞれ、

気温 10~30℃

湿度 45~80%

であり、気温が40℃以上になると塗装できない。たとえ40℃以上の高温で塗装できたとしても、塗面にはピンホールが多量に発生したり、付着不良が生じて目的とする塗装効果が得られない。水性エマルション塗料では、塗装可能な最低温度は一般に5℃くらいである。

 一般に、塗料は乾燥・硬化の段階で溶剤が蒸発するので、溶剤の気化熱によって塗装面の温度が低下する。20℃/80%の条件下で塗装面の温度が低下したとき、空気中の絶対水分量は変化しないので、相対湿度は80→100%になる。空気中の水蒸気が水(液体)になり、塗装面で結露する。乾燥中に塗装面に水が付くことがあってはならない。また、鋼材などの面では塗装寸前に鋼材表面温度を測定し、少なくとも露点より2~3℃以上高い状態とする必要がある。なお、露点とは大気中の水蒸気が水(液体)になる温度のことである。

 相対温度が高くなるほど、雰囲気温度と露点との差が小さくなるので、高湿度下での塗装には注意を要する。

2.塗料の仕組み

 塗料は流動的、固化するように設計されています。塗料には顔料(色を付与する固体粒子)を含まない透明塗料(ワニス・クリヤ)と、顔料が入った有色塗料(エナメル)があり、塗料の約90%はエナメルとして用いられている。

 さらに、塗料はその形態によって、分散形及び紛体に大別できる。

(1)溶液形

 樹脂類が溶媒中に溶解している塗料を総称して溶液形と呼ぶ。有機溶剤可溶タイプと水系溶媒中でポリマーがイオンとなって溶けている水溶性タイプ、ポリマーに比べて分子量の小さいプレポリマーやオリゴマーがモノマー(単量体)に溶けており、すべての成分が化学反応して橋かけ塗膜を形成する無溶剤タイプに分類することができる。この橋かけ塗膜を形成する無溶剤塗料には、不飽和ポリエステル樹脂や紫外線、電子線硬化塗料が該当する。

(2)分散形

 塗料は、エマルション重合でポリマーとなるエマルション形と、脂肪族炭化水素系溶剤中にポリマー粒子が分散している非水分散形に大別できる。いずれもポリマーが粒子として溶媒中に分散しているから、ポリマーの分子量がどんなに大きくても低粘度で、塗装時の固形分を高めることができる。通常は塗装しやすいように増粘剤が添加されている。

 エマルション塗料は、水に溶けないポリマー粒子が界面活性剤で覆われている水中油滴形になっており、牛乳・マヨネーズも同様である。

 非水分散とは、Non Aqueous Dispersion(NAD)を訳したものである。大気汚染を防ぐ見地から、芳香族炭化水素系溶剤の排出を抑えるために開発された塗料で、非水分散系塗料と呼ばれる。ポリマー粒子の外側にあるヒゲの部分が溶媒である脂肪族炭化水素になじむ界面活性剤の役割を果たし、分散相を安定に保っている。塗料シンナーで希釈することが可能で、弱溶剤希釈形塗料とも呼ばれる。

 分散形塗料の塗膜形成は、粒子同士の融着による。小さい粒子が接近すると、毛細管の作用で粒子を引き寄せる力が働き、2個の粒子が1個の粒子になるようにして、次々に融合を繰り返しながら造膜していく。

 塗料状態ではポリマー粒子の大きさが可視光の波長に比べて大きいので白く見えるが、塗膜になると連続膜になり、もはや光を散乱することなく透明になる。

(3)紛体、ホットメルト

 粉体塗料は有機溶剤や水を使用しない固形分100%の粉体状塗料で、静電吹付けまたは流動浸せき法により被塗物に塗装し、それを焼き付けることにより流動状態(固形から液体状態にする)を経て、連続塗膜を形成させる。粉体塗料の約70%は熱硬化性のエポキシ樹脂系である。

 エポキシ樹脂の硬化剤である酸無水物は、あらかじめ顔料と同様にエポキシ樹脂中に練入されており、粉体が溶融流動してから反応するように設計されている。

 一方、加熱により流動するホットメルト形の無溶剤塗料がある。道路中央の白、黄緑あるいは歩道を表す路面標示用塗料(トラフィックペイント)や段ボールのホットメルト接着剤はこのタイプに分類される。

3.乾燥について

 各工程に用いる塗料を塗り重ねていく場合、気象条件によって仕様書通りに進まないことがある。例えば、合成樹脂エマルションペイント塗の工程は、下塗り後3時間経過すると中塗りできるはずであるが、無風で高湿度、すなわちジメジメした天候状態では、3時間たっても塗面がべとついて塗り重ねできないことがある。

 現場作業では、乾燥程度を簡易的に評価し、塗り重ねが可能かどうかを判断しなければならない。官能検査によって、半硬化乾燥を塗り重ね可能な時期と判定するとよい。

 指触乾燥とは初期的な乾燥状態であり、軽く触れて指紋が残るかどうかで判定することが多い。実際の作業中に検査する場合は、直接塗面に触れることはせず、周りの養生テープや養生紙に付着している塗料に触れて確認する。

4.ラッカータイプと橋かけタイプ

  塗料の種類によって、塗膜になる乾燥機構は異なる。ラッカータイプの塗料ならば、溶剤の蒸発のみで乾燥し、塗膜になっても溶剤で再び溶ける。一方、ジャングルジムのような構造を形成して塗膜となっていく橋かけタイプの塗料は、乾燥中に皮膜成分の分子量が増大し、乾燥後の塗膜は溶剤に溶けない。橋かけ点の形成は化学反応であり、メラミン樹脂系のような焼付け塗料と2液型ポリウレタンや2液型エポキシ樹脂塗料などの常温乾燥塗料に大別できる。

 常温乾燥とは室温に放置するだけで塗膜になることを意味する。強制乾燥とは赤外線や熱風ヒーターを利用して、80℃以下で乾燥させることをいう。強制乾燥は常温でも乾燥する2液型塗料に適用される方法で、加熱することによって溶剤の蒸発と化学反応の速度が高まり、乾燥時間が短くなる。また、焼き付けとは橋かけ形塗料の典型的な乾燥手段であり、焼付け炉が必要となる。

 皮膜となるポリマー成分が粒子状に分散している塗料は、合成樹脂エマルションと非水分散形塗料に代表される。乾燥過程でポリマー粒子が融着して皮膜になるのであるが、このとき、単に融着のみで皮膜になるラッカータイプと、融着と同時に化学反応を伴う橋かけタイプの両タイプの塗料がある。現在は、橋かけ塗膜を形成する分散形塗料が建築塗装の分野でますます多くなっている。

 油には空気中で乾く、すなわち、分子量無限大の固体になる乾性油と、乾かない油とがある。ボイル油や油性調合ペイントは、乾性油が皮膜成分であり、空気中の酸素と化学反応(酸化重合)して、常温で橋かけ塗膜を形成する。油を化学結合したアルキド樹脂塗料は、油変性アルキド樹脂塗料と呼ばれており、フタル酸樹脂エナメルや合成樹脂調合ペイントがある。顔料を含まない油を主成分とする透明塗料をワニスと呼んでいる。

 油の酸化重合で橋かけ塗膜を形成する塗料には、油変性ポリウレタン樹脂塗料(1液型ポリウレタン)やエポキシエステル樹脂塗料がある。

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