塗装の目的は、建物の「保護」と「美観」である。そして形成された塗膜はさらにいろいろな「機能」を発揮する。
このうちの美観の目的を一歩進めて、美麗な模様や変化に富んだテクスチャーを付加したものを特殊塗装といい、そのうちでも特に芸術性の高いものをデコレーションペイントあるいはデコレイティブペイント(略してデコペ)と呼んでいる。
変わり塗りあるいは加飾塗装(意匠塗装)と呼ばれることもあるが、最近ではこの言葉はあまり使われなくなった。
1.デコレーションペイントの歴史
日本における特殊塗りは、漆塗りの世界で刀の鞘から始まったといわれる。
最初、刀の鞘は単に漆を塗り重ねるだけだったが、次第に武具というより美術品として捉えられるようになり、叩き塗り、牡丹塗り、津軽塗り、根来塗りなどという変わった塗り方がはやり始めた。しかしこれは現在のデコレーションペイントとは少しかけ離れたものであった。
実際のデコレーションペイントは、明治39(1906)年に東宮御所(現迎賓館)のゲストルームに施工したのが始まりとされている。
海外では、17世紀頃イギリスで、シェイクスピアの作品を上演する演劇集団が稽古をするグローブ座という劇場舞台の天井に、石材模様を施した塗装をしたのがはじめと言われ(当時は石材が重く、天井材として使用できなかった)、それがスウェーデンに伝わり、スウェーデンで広まったとされている。
第二次世界大戦後、欧米ではこの技術がもてはやされるようになり、近年、外国人技術者が来日して日本でも広まり、最近では専門に施工するものも出始めている。
2.デコレーションペイントの種類
デコレーションペイントといっても、その内容は多岐にわたる。大きく分けて、特殊な塗料や資材を使いもの、特殊な用具や工法で行うもの、またその両方を使いものといろいろである。ただ種類が多いので、ここでは特別な技術を必要とするものや、塗料や用具の入手が困難なものについては省略する。また、メタリック塗装、スチップル塗装、マスチック塗装、吹付けタイル塗装、多彩模様塗装(ゾラコート塗装)などはデコレーションペイントと呼ばないので、ここでは扱わない。
3.デコレーションペイントの工法
(1)木目塗装
金属やプラスチック板を木製品に見せかける塗装で、高級な木目模様を金属やプラスチックあるいはラワン合板やシナ合板に人工的につくり出す工法である。
木目模様を、人工的につくり出す工法は大別して二通りある。
a 転写法
ローラなどを用いて模様を被塗物に描く工法である。
b 木目描き法
木目模様用のゴム製ペインとローラを用いて被塗物を描く方法と、専用のはけと筆を使って直接被塗物に木目を描いていく工法である。
(2)大理石塗装
a スプレーガンを用いる方法
スプレーガンを用いて大理石模様をつくり出す工法である。使用する塗料はやや乾燥の早い塗料を用いるほうがよい。一般的にはアクリルラッカーなどを用いる。
方法としては、幅20~25㎜、厚さ10~15㎜程度の木の棒を用意し、被塗物の大きさに合わせてそれより少し小さめに枠を作り、それに真綿を張ってスクリーンをつくる。又は木枠の周りに針を30㎜くらいの間隔で打ち、これに真綿を伸ばして張る方法でもよい。
一般には白色あるいは淡いグレーで地色を塗り、希望の濃色(ブルー、ブラウン)を真綿の上から吹き付けて模様を付ける。真綿を用いるのは日本固有の工法である。
b べっこう塗り
大理石塗りの真綿の代わりに「ふのり」を用いる方法である。
c レース塗り
大理石塗りの真綿の代わりにレースを用いる方法。レース模様は細かいものを用いるとよい。レースのしわを伸ばすように注意しなければならない。
現在よく使われている工法は、本物の大理石の模様を正確に写生していく方法で、これは色彩を本物の風合いに限りなく近づける必要がある。
(3)菊花塗装
スプレーガンを用いてその特性を生かして作る方法で、ノズルの先から吹き付けられた塗料が塗面にぶつかって飛び散る現象を巧みに利用したのものである。菊の花のように美しい模様をつくるのでこの名が付いた。ただしこの方法はスプレーガンの使い方に熟達していないときれいな仕上げができない。
(4)乱糸塗装
この塗装法のために作られた加圧式の乱糸ガンと呼ばれる特殊なスプレーガンを用いて、乱糸模様(塗装面にくず糸を散りばめたような模様)をつくる方法である。粘度の高い塗料を高圧でスプレーガンのノズルから放出させると、糸状になって被塗物の表面につく原理を利用したもので、粘度の調整が仕上げの良し悪しを決める。