1.金属の素地調整

 金属の素地の表面には油脂、さび、汚れなどが付着している。これらを取り除かないで塗装すると、土師器や塗膜の付着不良が起こったり、塗装後短期間でさびが発生する。素地調整は塗膜の寿命に大きな影響を及ぼす最も重要な工程であり、塗装作業の基礎である。

 金属の素地調整は、さび落とし、脱脂、化成皮膜処理に大別できる。

(1)脱脂

 金属表面に付着している油類には、防せい油、潤滑油、切削油、焼入れ油などの鉱物油や植物油がある。例えば石油は鉱物油で、てんぷら油は植物油であり、両者の成分は大きく異なる。付着している油を取り除く作業を脱脂というが、油の成分が異なると脱脂方法も異なり、エンジンオイルのような鉱物油の除去には、焼いて取り去る、「から焼き法」や溶剤脱脂が有効で、汗や動・植物油(油脂)の除去にはアルカリ脱脂が有効である。

(2)さび落とし(脱せい)

 さびには、除去しやすいものと非常に除去しにくいものがある。鉄以外の金属さびは、大気中では比較的進行が緩慢であり、また除去することも容易である。しかし、鉄さびには、常温の大気中や水中などで生じる赤さび(酸化第二鉄)と、加熱加工などの製造過程で出きる黒皮(ミルスケール・四三酸化鉄)があり、赤さびは比較的除去しやすいが、黒皮は硬くてなかなか除去しにくい。

 黒皮は、均一な膜を形成している間は鉄鋼素地を保護する働きを持っているが、きずが付くと鉄鋼素地が腐食しやすくなるので、完全に除去することが望ましい。

 赤さびは、粗雑で付着性が乏しく、それが生じることによって、さらにその後のさびへの変化が早められるので、完全に除去しなければならない。

 さび落とし(脱せい)の方法には、物理的方法と化学的方法がある。物理的にさびを落とす作業をケレンと呼ぶが、語源は英語のクリーンからきている。ケレンにはいくつかのグレードがあり、その内容と工法が異なる。

化学的方法とは、酸又はアルカリ水溶液中に浸せきさせる方法である。鉄鋼材料には主に酸洗い法が用いられ、アルミニウムにはアルカリ処理が有効である。

 酸洗い法は、金属表面に存在するさびを酸によって溶解し、化学的に除去する方法であるが、酸が表面に残るため、次の工程である化成皮膜処理に悪影響を及ぼすなどの欠点もある。しかし、機械的な方法に比べて量産に向き、隅々まで脱せいでき、素材にひずみや表面の荒れを生じることも少ないので、最も有効で一般的な方法である。

 さび落とし作業によって、金属表面が活性化され、塗料の皮膜成分と金属表面の活性点との間にくっつく力が発生する。活性化した表面には空気中のあらゆる物質が吸着されるので、さび落とし後は速やかに塗装することが大切である。

(3)化成皮膜処理

 金属の表面を処理して耐食性を与え、いろいろな目的に適合させるための方法には多くの種類がある。その中で化成皮膜処理とは、化学的に金属表面を処理して、表面に保護能力を持つ酸化物や反応生成物をつくる処理をいい、その皮膜を化成皮膜という。

 塗装の素地調整として利用する目的は、金属素地表面に、できるだけ均一な層を形成することによって金属素地の防食性を高め、同時に塗料との付着性を向上させることにある。化成処理には、りん酸塩処理・クロメート処理、陽極酸化処理及びエッチングプライマー処理などの方法がある。

a.りん酸塩処理

 鉄鋼や亜鉛めっきの表面に不溶性のち密な結晶をもった、りん酸塩皮膜を形成させる化成処理である。塗装下地として耐食性、付着性の向上を図るのが目的であり、現在広く利用されている。

b.クロメート処理

 亜鉛めっきやアルミの活性な表面にクロメート皮膜を形成させる化成処理である。目的は、この処理を施すことによって金属表面を電気的に不良導体化し、塗膜の付着性と防食性を良好にすることにある。亜鉛めっきやステンレスの場合には主として塗付け形が使用される。

c.陽極酸化処理

 アルミニウムはそれ自体活性な金属で、空気中の酸素と結合して常に薄い酸化アルミニウム皮膜を生成し、アルミニウムの耐食性に大きく寄与している。この酸化皮膜を電気化学的に作って、より耐久性を向上させる化成処理が陽極酸化処理である。

d.エッチングプライマー処理

 大きい部材や現場で塗装する場合で、前記a,b,cのような浸せき、あるいはスプレー法による化成処理ができないときに、エッチングプライマーが用いられる。エッチングプライマーは化成処理を兼ねた表面処理塗料で、その効果も優れていることから多く使われている。

 化成処理には、下記の工程が採用されるが、表面処理の目的、素材の汚れ状態、要求される程度などによって工程を簡略化することも可能である。

【工程】 脱脂 → 水洗 → さび落とし → 水洗 → 調整 → 水洗 → 皮膜化成 → 後処理 → 水洗 → 乾燥

 処理方法には、はけ塗り法、浸せき法、スプレー法、蒸気処理法、ロールコート法などがあるが、一般的には、浸せき法やスプレー法が広く使用されている。処理方法は、処理物の形状や大きさ、生産規模、処理の程度などを考慮に入れて選択する必要がある。

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