5.建築用仕上塗材の塗装

(1)仕上塗材及び用語の定義

 仕上塗材は、セメント・合成樹脂などの結合剤、顔料、骨材などを主原料とし、主として建築物の内外壁又は天井を、吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどによって立体的な造形性を有する模様に仕上げる塗材である。なお、骨材には、けい砂、寒水石、砂、陶磁器砕粒、色砂、軽量細骨材などがある。

 建築用仕上塗材は、次のように定義されている。「建築物の内外壁又は天井の表面に、ある種の造形的なテクスチャー・パターンを与えると同時に、必要に応じて着色を行う仕上げ材で、主として吹付け、ローラで施工する。」(JIS A 6909参照)

 そのテクスチャー・パターンは、砂壁状、ゆず肌模様、凹凸模様、凸部処理模様、月面(クレーター)模様、スタッコ状などがある。山の部分の厚さが1~10㎜程度の仕上げ材で、単層で仕上げるものと複層で仕上げるものがある。

 また、これらの用語は、次のように定義されている。

単   層:下塗り材及び主剤、又は主剤のみで仕上げるもの(薄付仕上塗材、厚付仕上塗材)

服   装:下塗り材、主材および上塗り材の3層で仕上げるもの(複層仕上塗材・厚付仕上塗材)

下塗り材:主として下地に対する主材の吸込み調教および付着性を高める目的で使用するもの

主   剤:主として仕上げ面に立体的又は平坦な模様を形成する目的で使用するもの。

上塗り材:仕上げ面の着色、光沢の付与、耐候性の向上、吸水防止などの目的で使用するもの。

 仕上塗材仕上げを行う各種下地の下地調整は、次のa~fを標準とする。

a コンクリート・プレキャストコンクリート部材下地

 (a)仕上塗材の仕上げ厚が薄い場合、特に型枠の目違い、ひずみ、気泡穴などを、セメント系下地調整塗材を用いて、仕上がりに支障がないように調整する。

 (b)屋内で、水のかからない箇所の下地調整には、合成樹脂エマルションパテ(耐水形)を用いてもよい。ただし、セメント系仕上塗材の下地調整には用いない。

 (c)部分的に下地補修や下地調整された面が、ほかの面と著しく吸い込みが異なる場合は、合成樹脂エマルションシーラーで全面に吸い込み止めを行う。ただし、仕上塗材の下塗材で代用できる場合は省略することができる。

b ALCパネル下地

 (a)外壁などのALCパネル面は、仕上塗材製造業者の指定により、セメント系下地調整塗材又は合成樹脂エマルション系下地調整塗材を全面に塗り付け、仕上がりに支障がないように調整する。ただし、外装薄塗材Sおよび防水形複層塗材RS仕上の場合は、あらかじめ合成樹脂エマルションシーラーを塗り付けた後、セメント系下地調整塗材を塗り付ける。

 (b)屋内の薄付け仕上塗材仕上げで、ALCパネルの通気性の確保などを目的として、下地調整塗材を省略する場合は、合成樹脂エマルションシーラーを全面に塗り付ける。

c コンクリートブロック下地

 全面に合成樹脂エマルションシーラーを塗り付けた後、セメント系下地調整塗材を塗り付ける。

d けい酸カルシウム板下地

 合成樹脂溶液系シーラーを全面に塗り付ける。

e せっこうボード下地

 (a)せっこうボードの目地を突付けとした場合は、その目違い、くぎ穴などは、合成樹脂エマルションパテ(一般形)を用いて処置する。

 (b)せっこうボードの目地をV形とした場合及びテーパーボードを用いた場合は、ボード製造業者の指定する材料を用い、不陸や目違いがないように平滑に調整する。

 (c)薄付け仕上塗材仕上げで、目地処理された部分と他の部分の吸込みむらなどを防止するために、全面に既調合のせっこうプラスターなどを塗り付ける場合は、仕上塗材製造業者の指定する材料・工法による。

f ガラス繊維補強セメント板・押出成形セメント板下地

 全面に2液型の合成樹脂溶液系シーラーを塗り付ける。この場合、仕上塗材の下塗材の要否は、仕上塗材製造業者の指定による。

 

(2)施工

 建築用仕上塗材の塗装は、素地ごしらえ終了後、下塗り(素地押さえ)、中塗り(主材塗り)、上塗り(仕上げ)の3工程で仕上げられる。

a 下塗り

 下塗りは、下地の吸収を均一にし、下地と主材との付着を補強する目的で行うもので、塗り残し、塗りむらのないように施工しなければならない。下塗り後、長時間放置すると必要以上に硬化が進んだり、汚れが付着したりするので、速やかに主材吹きを行う。

b 主材塗り

 主材塗りの主な目的は、吹き付けることによって種々の模様を形成することである。塗り見本と同様の模様になるように、指定された条件によって吹付けを行う。

 複層仕上塗材は、その模様に特徴があり、塗り見本によって工程・塗り回数・塗布量・模様・色などについて、責任者の承諾を受けておく。特に追加工事では、材料の発注・受け入れ・確認は塗り見本によって行う。

c 上塗り

 上塗りは、主材の耐久性を向上させ、耐汚れ性などをもたせるために行うものである。上塗り塗料には、溶液形とエマルション形であるが、主に耐候性のすぐれているアルカリ系・アルカリウレタン系が用いられる。最近では、ふっ素系上塗りも使用される。

 下塗り・中塗り・上塗りの各塗材は、同一製造会社の製品で統一することが原則である。

 

(3)仕上塗材塗装のキーポイント

 従来、鉄筋コンクリート造の構造物は、内外装とも左官工事のモルタルこて塗りで打放し面の下地調整が行われていた。打放し面に20㎜前後の厚みのモルタルがこて付けされて、打放し面の不陸、目違い、巣穴、欠けなどが補修され、併せて表面の平滑面が整えられていた。

 しかし、モルタル仕上げ工法は能率が悪く、工期短縮の要請にこたえられなかった経過があった。また、セメントモルタル塗りは、時間の経過とともにひび割れが発生し、コンクリート素地との密着も低下して浮きなどの欠陥を生ずることが多く、それが仕上がり塗装面の欠陥となって、工事上の問題点となっていた。

 コンクリート打込み用の型枠の精度が向上して、脱型後のコンクリート面の不陸、目違いなどの欠陥も大幅に改善されるとともに、次第に左官工法による厚付けの下地調整は、塗装による薄付けの下地調整へと転換されるようになってきた。

 合成樹脂エマルションパテは作業性もよく、コンクリート面の下地調整塗材として極めて有用なものである。しかし、外壁面用の下地として用いた場合、これを原因とする欠陥(膨れ、はがれ)が続出し、外部用としては適切ではなかった。これまで外壁面用のパテとして信頼のおけるものは、塩化ビニル系パテが唯一のものだったが、作業性が悪いため、使用されにくい状況であった。外部用下地調整材としては、セメント系のものが出現して、初めて信頼できるパテとして使用できるようになったといえる。

 幾多の改良がおこなわれ、昭和58年(1983)、JIS A 6916「建築用下地調整塗材」として品質基準が設定された。セメント系下地調整塗材による下地形成の工程は、コンクリート面塗装の最重要工程である。その重要性を忘れてはならない。

 

(4)セメント系下地調整塗材

 セメント系下地調整塗材は、別名セメントフィラーと呼ばれている。その構成材料は、粉体と混和液である。粉体はセメント、骨材及び増粘剤などの混和材料からなり、混和液はセメント混和用ポリマーディスパージョンで、アクリル系、酢酸ビニル系、合成ゴム系又はこれらの混合系のものである。セメントフィラーの使用では、セメントの特性に制約されることは当然である。材料の使用と保管は正しく行わなければならない。

 

(5)薄付け仕上塗材

 セメント合成樹脂などの結合材、骨材、無機質系粉体及び繊維材料を主原料としている。

 主として建築物の内外壁を吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどにより、原則として単層で、厚さ3㎜程度以下の凹凸模様に仕上げる薄付け仕上塗材である。

 層構成は、下塗り材、主材の2層構成である。薄付け仕上塗材のうち、現在最も多用されるものに、外装薄塗材Eと可とう形薄塗材がある。

a 外装薄塗材E

[長所]

①作業性がよく、施工管理が容易。火気及び大気汚染の心配がない。

②適用下地の種類が多い。

③比較的安価で色の種類も多い(陶石リシン仕上げはやや高価)。

[短所]

①セメント系リシン仕上げより汚れが付きやすい。

②寒冷時の作業に難点があり、5℃以下では丈夫な塗膜は形成しにくい。

b 可とう形薄塗材

 形成の中心をなす結合材は、ゴム弾性を有するアクリルゴム、アクリルエマルション樹脂である。

[長所]

①ゴム状弾性を有し、コンクリート構造物のひび割れに対する追随性がよく、防水性が高い。

②連続した塗膜は、コンクリートの劣化に対して抑制効果を果たす(中性化防止)。

③下塗り材、主材塗りの2工程の仕上げで、経済性が高い。

④主材着色なので施工が簡単。塗替え工事に最適である。

[短所]

①雨だれなどの汚染がつきやすい。

②シーリング、サッシの取合いの部分から、塗面の裏側に雨水が回って、膨れの欠陥が発生する。施工に注意が必要である。

 

(6)複層仕上塗材(JIS S 6909)

 複層仕上塗材には、セメント系、ポリマーセメント系、けい酸質系の仕上塗材もあるが、最も多用されるものは、合成樹脂エマルション形で、複層塗材Eと呼ぶ。

 主材に用いられる結合剤の種類から、複層塗材E、複層塗材RE、複層塗材RSと呼んでいる。

 耐久性能はE→RE→RSの順に高くなるが、施工単価も同様である。セメント、合成樹脂などの結合材及び骨材が主原料で、主として建築物の外壁を吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどによって3層で、厚さ1~5㎜程度の凹凸模様に仕上げる複層仕上げ塗材である。

 Eは結合剤が合成樹脂エマルション系で、REは反応硬化形合成樹脂エマルション形(エポキシ系)を成分とし、RSは合成樹脂溶液形(エポキシ系)である。

[特徴]

①E、RE、RSともパターン、性能、価格でバランスが取れていて、多彩な仕上げができる。

②Eは適応する下地の種類が多く、ALCパネルも適応する。しかし耐水性、付着性、強度はRE、RSに比べて劣る。

③RSは下地への付着力が最も強く、塗膜の強度も高く、ひび割れの発生も少ない。しかし付着力が強すぎるため、下地の強度が弱いときは、これを引きちぎってはく離する欠点がある。価格も高く、作業性もE、REに比べて劣っている。適応する下地の選択には注意が必要である。

④REは付着性、耐水性、強度も十分で、RSに比べて価格も低く有用である。また、RSでは表現が難しいヘッドカットの凸部処理が表現しやすい、などの利点がある。

 

(7)伸長形複層塗材

 結合剤にゴム弾性を有するエマルション(アクリルゴム、アクリル系、クロロプレン系)を用いるもので、そのほかは変わらない。

[特徴]

①ゴム弾性を有する主材層により、優れた防水性を付与する。

②コンクリート劣化要因に対する保護機能がある。

③耐久性のある多彩な仕上げが可能である。

④膨れなど欠陥が生じる場合があるため、施工に十分注意が必要である。

 

(8)厚付け仕上塗材(JIS A 6909)

 厚付け仕上塗材はセメント系、シリカ系、樹脂系の三つに大別される。一般名称は厚塗材E(内装、外装)で、俗称は樹脂スタッコと呼ばれる。セメント、合成樹脂エマルションなどの結合材及び骨材を主原料とし、主として建築物の内外壁を吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどによって、原則として単層で、厚さ4~10㎜程度の模様に仕上げる厚付け仕上塗材である。結合材は複層塗材Eと同様である。

[特徴]

①作業性がよく、施工管理が容易である。

②適用下地の種類が多い。

③重厚な仕上がりで、色彩の種類も多い。

④主材着色で外的な損傷に対しても色変化が少なく、補修も容易である。

⑤トップコートを必要とせず、希望に応じて自由な色相が得られる。

⑥トップコートは仕上塗材の汚染防止と耐久性向上のために使用されるが、工場地帯では特にその効果は大きい。

 

(9)素地の種類と仕上塗材の選定

 各種の仕上塗材が吹き付けられる面は、コンクリート、モルタル、ALCパネルなどであるが、選択される吹付け材は、それぞれの素地に適応するものでなければならない。

 例えば、ALCパネル面に反応硬化形の吹付けタイルREや溶剤形の吹付けタイルRSで仕上げると、下地の強度が小さいため、凝集破壊が起き、はく離する恐れがある。

 また、せっこうプラスター・ドロマイトプラスター・しっくい及びせっこうボードなどの表面に、セメント系の強度の大きい材料を吹き付けると、はく離などの欠陥を生じ、ボードの表面がアルカリに侵されることもある。

 このほか、鉄板下地などは亜鉛めっき、又は防食、塗装などの処理を施す必要から、仕上塗材の種類が限定される。下地の種類に応じて、素地ごしらえを十分に行うことが必要である。

 

(10)建築用仕上塗材の効果

 建築用仕上塗材は、もちろん建築物の化粧仕上げを主目的とするもので、厚膜の造形的なテクスチャーをもっていることが、一般の建築用塗料の仕上げと異なるところである。

 しかし、今日建築用仕上塗材に期待するものは、従来の意匠的美粧効果のみでなく、建築物の耐久性維持も併せての複合効果である。中性化抑制の効果は、仕上塗材の種類に大きく関係し、合成樹脂エマルション複層仕上塗材(アクリル系・エポキシ系)の抑制効果は極めて大きい。

 また、つや有りエマルション塗料(GP塗料)や浸透性塗布形防水剤も膜厚の薄い割には、一定程度の中性化抑制効果を示すことが分かっている。

 なお、コンクリートの塩分が混入しなければ、中性化している部分の鉄筋のさびの発生はほとんどなく、コンクリートが中性化しても、外装仕上塗材で被覆して水、酸素を外部から遮断すれば、その後の鉄筋の腐食の進行はある程度抑制される。

 

(11)仕上塗材工法の特徴

 仕上塗材工法は、他の仕上げ工法(タイル張り、石張り、左官工法など)に比べて次のような特徴をもっている。

①作業性がよい。

②施工コストが安く、経済面で有利。

③構造物の位置、大小、形状を問わない。

④美装性機能が多種、多様である。

⑤保護機能として防水、防火、防熱、中性化阻止、アルカリ骨材反応の抑制など、多くの機能をもつ。

⑥塗替え工法により、建築物の維持、保護、意匠替えが経済的に行える。

 仕上塗材工法は、塗材と塗る技術の複合技術である。塗材の開発、改良により、さらに多くの機能性を発揮することが可能である。塗装材料の寿命は被塗物の寿命に比べてはるかに小さいが、繰り返し塗替えを行うことで、建物の耐久性維持が比較的容易に達成できる。

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