鋼構造物塗装の防せい効果は、素地調整から塗装完了までの各工程の作業の良否にかかっている。そのために、作業には適切な管理が必要である。管理の内容は次のようなものとなる。
(1)素地調整の管理
素地面の脱脂、防さび、清浄が適切に行われているか、溶接部の処理は良いか、素地表面の粗さの程度(膜厚・塗り回数に関係する)を確認する。
(2)塗料の管理
①受け入れ塗料の品質、色、光沢の程度。
②塗料の使用量、必要な膜厚を確保するために用意された塗料が、正しく使用されたか否かの確認。
③塗料の保管。
塗料、希釈剤は引火性の危険物である。保管、取扱には特に注意する。
(3)塗料の調整
a 塗料の希釈
塗料製造時の調整条件は、23±2℃及び相対湿度50±5℃である。しかし作業時の温度、湿度によって粘度を調整する必要がある。薄めすぎた場合、塗料に流れを生じたり、下地の”かぶり”が不足して(下地を完全に隠すことができず)見苦しいだけでなく、乾燥後に塗膜の膜厚不足から、防せい性能が低下するなど、十分な膜厚性能を発揮できない結果となる。
b 塗料のかくはん
さび止め塗料は、顔料に比重の大きいものが使用されているため、長期間貯蔵されていたものは、防食の働きをする顔料が沈降する傾向がある。かくはんが不十分な場合、顔料とビヒクルの混合状態が不均一になり、そのまま使用すると塗膜は防せい効果のないものになる。かくはんを十分に行うことで、色むら、すけなどの欠陥も未然に防ぐことができる。
c 塗料の調合
2液形の塗料は主剤、硬化剤の配合比率を正確に守って、混合、かくはんの操作を確実に行い、使用するよう心掛ける。
(4)塗装環境の温度、湿度
環境の温度、湿度は塗膜の性能に大きな影響を与える。塗膜は水分によって付着障害を起こす。2液形エポキシ系塗料は、低温時の塗膜では化学反応が進まず、乾燥が著しく遅れ、塗膜は完全なものにならない。低温多湿時の塗膜は避けるようにする。
(5)膜厚と防せい効果
膜厚の防食効果に及ぼす影響は非常に大きい。塗り上がった塗膜には必ずピンホールがある。塗り重ねを繰り返すことによって、その穴は次第に少なくなっていく。一般に膜厚が大きいほど、塗膜の寿命は長い。1回塗りと2回塗りでは寿命に差が生じるのである。ただ、塗料によって各々適正な膜厚があることも知っておく必要がある。
(6)塗装間隔
第1層を塗装してから第2層の塗料を塗装するまでの時間を塗装感覚という。塗料にはおのおの適正な塗装間隔があって、これより短い場合、下層の塗膜が上塗りの溶剤で軟化してリフティングなどの欠陥につながる恐れがあり、長すぎる場合は層間の付着性が低下して、層間はく離を生じる。防せいの塗膜層は下・中・上の3層からなり、相互の塗膜がしっかり密着・一体化して初めて目的が果たせるものである。塗膜の乾燥が適正に行われるように、温度、湿度、風速などの管理は重要である。
乾燥不良によるしわ、はじき、層間はく離などの欠陥を生じさせないで塗装可能となる時間間隔を、塗付け間隔又は塗り重ね間隔と呼ぶ。