1-1 木部の素地調整
木部の塗装には透明塗装と不透明塗装と、まったく違った仕上げの方法があり、素地の調整の方法も異なる。
(1)透明塗装の場合
透明塗装では素地の状態をそのまま表すので、素地調整が塗装に重要な要素を占めている。したがって、素地に色むらや変色などがある場合、その部分を着色で修正するか漂白することも必要になる。
漂白の方法には、
〇次亜塩素酸ソーダ―
〇過酸化水素
〇過炭酸ナトリウム
〇フッ化水素
などを使用する方法がある。
ただし、昨今は上記成分を含む木部用漂白剤が用途別に市販されているので、これらを使用する方が、取扱いやすさや安全などを考慮すると有効である。
(2)不透明塗装の場合
素地の目違いは削り、深い穴には穴埋め用パテを使う。穴埋め用パテにはポリエステル樹脂パテやオイルパテが使用できる。
合成樹脂エマルションペイントで仕上げる場合は、セラックニスで節止めを行う。
また、鉄釘などさびやすい金属が使用してあれば、必ずさび止め塗料で補修塗りして、さび止め処置を施す。怠るとすぐにさびが発生する。
(3)研磨紙ずり
透明塗装でも、不透明塗装でも研磨紙ずりは常に行われる。
特に透明塗装は素地調整には必ず研磨紙ずりを行う。
(4)木材素地の含水率
素地の木材が水分を多く含んでいると、塗膜の乾燥不良、付着不良、ふくれ、つやひけなどの原因になる。
塗装するのに支障ないと考えられる含水率は、12%~20%内外である。
市販の木材は人工乾燥で12%~18%になっているので、そのつど含水率を測る必要はないが、現場の環境が水分を含みやすいようであれば、含水率の測定が必要である。この場合、木材用の含水率計を使用すれば簡便に測定ができる。
1-2 鉄部の素地調整
さび止め塗装の目的は、いかに金蔵を腐食から守るかである。金属を腐食から守る要因の第一に素地調整が挙げられている。その他に塗り回数や塗料種が大きな要因を占めている。
いかに高級な塗料を使用しても、塗り回数を増やしても、素地調整が十分に行われていなければ、期待通りの防錆性は発揮できない。
素地調整は、鉄の表面からミルスケール(黒皮)や赤さび、油脂類などの付着物を除去するために行われる。
赤さびは自然環境の中で、様々な腐食性物質が介在し、水と酸素の反応で発生する。ミルスケール(黒皮)は鋼材製造時に、高温での酸化作用でできる黒いさびである。
素地調整のグレードで異なるが、基本的にはミルスケールも赤さびも除去することが望ましい。
(1)さび落としの方法
(a)ブラストによる方法
大型構造物などの素地調整に適している。ブラスト法ではサンドブラスト、ショットブラストが代表的だが、いずれも研磨材を噴射して鋼材に当てることでさびを除去する方法である。
サンドブラストは研磨材に珪砂などの骨材を、ショットブラストは鋼玉を用いる。ブラスト法はさびの除去能力に優れ、高い防錆性を要求される重防食塗装に多く適用される。
ブラスト処理後の鉄面は短時間でさびるので、直ちに一次防錆塗料(ショッププライマー)を塗装する。
(b)電動工具による方法
ディスクサンダーやワイヤーホイルなどの電動工具を用いてさびを除去する方法である。
赤さびや浮いたり厚くなったミルスケールは除去できるが、完全に付着したミルスケールは除去し難い。
(c)手作業による方法
最も簡便な素地調整法で、スクレーパー、ワイヤーブラシ、研磨紙などを用いて手作業でさびを除去する方法である。
当然、効果も効率も悪く、腐食の進んだ赤さびを除去できる程度であるが、現実には現場塗装で最もよく用いられている。
(d)化学的な方法
工場製品などに用いられる方法だが、工場内に化学処理ラインがあり、脱脂剤やさび除去などの薬品で素地調整する方法である。
さび除去後は直ちにりん酸塩などを用いて化成被膜処理を行う。
1-3 亜鉛めっき部の素地調整
鋼材を亜鉛で防錆処理したものが亜鉛めっき鋼材である。鉄よりも亜鉛が早く腐食することで鉄の腐食を防いでいる。
防食性に優れているので建築材料に多く使用されているが、もともと塗料の付着は悪く、塗膜剥離の発生しやすい素地である。
本来は塗装しない方が望ましいともいわれているが、美粧性を考慮し、より防食性を高めるために塗装されることが多い。
亜鉛めっきの塗装では、素地調整と塗料種の選択が重要になる。
亜鉛めっき鋼はりん酸塩などで化成皮膜処理されていると、塗料の付着がよく安心である。
化成皮膜処理されていない亜鉛めっき鋼は、脱脂を十分に行ってから塗装系に適した下塗りを塗装する。
油性系塗料の塗装では、JAS K 5663 1種エッチングプライマーが使用されるが、エッチングプライマーを塗装後は、2時間以上8時間以内に次の工程に入らないと、はく離事故などが発生するので注意が必要である。このために短曝形とも呼ばれている。
昨今は適用範囲の広い変性エポキシ樹脂プライマーが多用されている。
1-4 セメント系素地部の素地調整
セメント系素地部の素地調整のポイントは、含水率、pH(アルカリ度)、そして表面のひび割れやピンホールなどの処理である。
(1)含水率
セメントは水と水和反応で硬化する。本来なら水和反応に必要な水分であれば用は足すが、施工するためには流動性を付与する必要があり、余分な水を加えることになる。
この余剰水が一定期間壁内に残存することになる。残存水分の多い状態で塗装するとふくれや付着不良などの原因になる。
対策として含水率管理が必要になる。
(2)pH(アルカリ度)
セメントはアルカリ性である。セメントのアルカリ性は躯体内の鉄筋などを保護するための重要な要素である。
ただし、このアルカリ性の高い状態で塗装すると、塗膜の変色やエフロレッセンス(白華現象)などの事故につながることがある。
対策としてpH(アルカリ度)測定が必要になる。
(3)含水率とpH(アルカリ度)の関係
一般的に塗装に適したセメント系下地のpHは9以下、含水率8~10%以下が望ましいとされている。
そのためには、季節や環境により異なるが、3週間~4週間の養生期間(乾燥期間)が必要とされている。
水分は時間とともに蒸発していくし、表面のアルカリ度は空気中の炭酸ガスにより中性化し低下していく。
塗装できる適正時期を把握するためには、含水率測定やpH(アルカリ度)測定が必要である。
含水率測定にはセメント系素地用含水率計、pH(アルカリ度)測定にはpHコンパレーターやリトマス試験紙などが使用される。
(4)ひび割れやピンホールの処理
セメント系素地にはひび割れやピンホールなどの発現が多い。塗装前にはこれらの素地調整が必要になる。
(a)汚れ、付着物、突起物の除去の工程
ケレン工具、研磨紙、研磨布及びブラシなどを用いて、汚れ、付着物、突起物などを除去し、清掃する工程である。
(b)吸込み止めの工程
素地の表面の密度のむらによって、塗装した塗料の乾燥状態に差が生じると、色むらやつやむらなどの原因になることがある。
このため、素地表面を均一化するために、シーラーを塗装して吸込み止めを行う。
(c)パテかい、パテ付けの工程
パテかい、パテ付けは下記の工程で行われる。
〇各塗装種別の仕上がりに応じ、こてやへらによって面を平たんにする。
〇気泡穴、小さい目違い、不陸などは平たんにする。
〇ボード、パネル類の突き付け目地、V形目地、くぎ頭らのたたき跡などは平たんにする。
パテかい作業は、部分的なくぼみや穴、きず、小さい目違い、ひび割れなどを補修する小さな面積を対象として行うものと、不陸など比較的大きな面積を対象として行うもの、また、特定の部位例えば目地を納めるために行うようなものなどの種類がある。
全面パテ付け前段階としてのパテかいは簡単に行われることが多い。
パテ付け作業は、全面にパテを塗る工程であるが、肉厚にパテを付けるパテ付けと、へら、こてでパテを素地にすり込むように、余分なパテを残さないようなパテしごきがある。
不陸や段差のように厚みを必要とする場合は、厚付け用パテを用いた地付けになるが、一般的にはしごき塗りが多い。
素地の表面状態や仕上げの程度によっては、素地に寒冷紗を貼り、パテ付けすることで肉厚な均一面を得る方法もある。
(d)研磨の工程
パテかい、パテ付けなどで生じた、不要なパテ層の盛り上がりや波打ちを調整する作業である。しかし、パテ種によっては硬く研ぎにくいものもあるので、パテ工程でできるだけ平滑に仕上げることが重要である。
1-5 せっこうボードその他のボード部の素地調整
昨今の建築内装塗装では、セメント系下地よりせっこうボードを中心にしたボード類の採用が圧倒的に多い。
ボード類は一定面積のボードを貼り付けるために、必ずボードを突き合わせた目地ができる。
この目地は、目透かし貼り以外は、突き合わせ目地を処理して一面化しなければならず、素地調整として重要な作業になる。
ボード目地には、突き付け貼り、V目地、テーパー目地などがある。
この場合の施工のポイントは、目地処理後に目地部にクラックが入らないように処理することである。
突き付け貼りや、テーパー目地は処理が難しく、処理後にクラックが発生しやすい。
一般的にはV目地が多く、処理工程は各種各様だが、概ね次の手順で作業されている。
V目地に肉やせの少ない厚付け用パテを充填する。乾燥後、仕上げ用パテで平滑にする。一般的にはクラック防止のために、ジョイントテープが貼られる。ジョイントテープが使用されれば、ジョイントテープが目立たないようにパテ処理が施される。
この目地処理が仕上り程度を左右する。