3-1-1 金属面用下塗り塗料

 最も一般的な金属下地は鉄ですが、そのほか塗装下地としては、亜鉛めっき鋼材やステンレス、アルミニウムなどがあります。

 これらを塗装するには、その金属に適した下塗り塗料を選択しなければなりません。

 

(1)さび止め塗料

 鉄面への主たる塗装目的は、鉄を腐食(さび)から護ることにあり、鉄のさびを防ぐために塗装されるのがさび止め塗料です。鉄をさびから護るには、鉄の表面に水や塩分などの腐食性物質が触れないようにすることです。

 さび止め塗膜のさびを防ぐメカニズムは、塗膜の種類やさび止め顔料により異なりますが、

  ● 下地に、強固に付着することで、腐食性物質を侵入しにくくすること。

  ● 塗膜自体の耐水性能や耐薬品性能が優れていること。

  ● さび止め顔料によって、鉄がさびにくい環境を作ること。

などがあります。

 代表的なさび止め塗料には、油性系さび止めペイントとエポキシ樹脂系さび止め塗料があります。

 油性系さび止めペイントはJIS規格に規定されているものがあり、主に1種と2種があります。

 1種は油性系であり、2種は合成樹脂系で性質・性能が異なります。この両者を比較すると、1種は乾燥が遅く、仕上り性に劣るが、膜厚が厚く防錆性に優れています。2種は乾燥が早く、仕上がり性も良いが、防錆性はやや劣ります。

 この防錆性は鉄面のケレン(さびの除去)程度に左右されるので注意しなければなりません。

 油を含む油性系さび止めペイントは亜鉛めっき面に塗装すると、油と亜鉛化合物(アルカリ性)が反応し、鉄面の防錆には有効な金属石けんが、亜鉛めっき面では塗膜硬度が増し、付着力が低下することで塗膜剥離しやすい尾で適用を避けます。

 さび止め顔料は鉛系やクロム系が中心でしたが、最近は無鉛化・無クロム化が進んでおり、鉛系・クロム系さび止めペイントは減少しつつあります。

 エポキシ樹脂さび止め塗料は、JIS K 5551の1種下塗り塗料、2種下塗り塗料に規定されていますが、違いは1種が標準タイプ、2種が厚膜タイプです。

 エポキシ樹脂さび止め塗料の防錆性は、下地に対する強固な付着力とエポキシ樹脂の塗膜性能の良さによって発揮されます。 エポキシ樹脂さび止め塗料は、下地のケレン程度に大きく左右されるので注意が必要です。

 

(a)一般用さび止めペイント(JIS K 5621 : 2008  1種・2種・3種・4種)

 さび止め顔料に鉛系及びクロム系成分を使用しないで、一般的な環境下での鉄鋼製品などに用いるさび止めペイントです。種類は従来の1種は油性系(内外部用)、2種は合成樹脂系(内外部用)、3種は速乾形(内外部用)に加え、4種に水性系(内部用)が追加されています。 JISに規定されたさび止めペイントでは防錆能力が低く、公共建築工事標準仕様書(建築工事編)では用途を内部用に限定しています。

 

(b)鉛丹さび止めペイント

 さび止め顔料に鉛丹(光明丹とも呼ばれる)が配合されており、最も古くから使用されています。色相が赤みの強い橙色で光明丹色とも呼ばれています。油性系と合成樹脂系があります。鉛丹のさび止め顔料としての役割は、塗膜中の樹脂成分である油と反応して、緻密な鉛せっけん被膜を形成してアルカリ雰囲気を作り、さびにくくしたり、腐食性物質の透過を防いだり、浸透した酸性の水を不活性化したりして防錆効果を発揮します。 なお、鉛丹さび止めペイントは、塗料の密度(比重)が高く重いこと、層間剥離が起きやすいなどから、減少の一途を辿っています。

 

(c)亜酸化鉛さび止めペイント(JIS K 5623 1種、2種)

 さび止め顔料に亜酸化鉛を使用していますが亜酸化鉛は活性が強く、塗料に配合すると貯蔵安定性が悪くゲル化してしまいます。このため、塗料液と亜酸化鉛が別タイプになっていて、使用時に塗料液と亜酸化鉛を混合して使用します。 1種は油性系、2種は合成樹脂系です。 防錆の考え方は鉛丹同様で、より防錆力に優れるが現場混合形のため、橋梁・タンク・プラントなどの大型物件に使用されるケースが多いです。

 

(d)塩基性クロム酸鉛さび止めペイント

 さび止め顔料に塩基性クロム酸鉛を使用しており、鉛とクロムの両者が防錆力を発揮します。油性系と合成樹脂系があります。現在ではほとんど使用されていません。

 

(e)シアナミド鉛さび止めペイント(JIS K 5625 1種 2種)

 さび止め顔料にシアナミド鉛を使用しており、シアナミド鉛が鉛丹同様の防錆効果を発揮します。1種は油性系、2種は合成樹脂系です。 シアナミド鉛は鉛系さび止め顔料の中で最もアルカリ性が高く、酸性水(雨水)などの中和能力が高く、優れた防錆力を発揮します。 1液タイプであり、鉛系さび止めペイントとして防錆力が優れているので、橋梁・タンクなどはもちろん、建築用途に広く用いられています。

 

(f)ジンククロメートさび止めペイント

 さび止め顔料にジンククロメートを使用していますが、ジンククロメートは油との反応性が強いため、合成樹脂系のみです。二酸化チタンが配合され、主に軽金属や構造物に使用するタイプと酸化鉄が配合され、主に鉄鋼製品に用いられるタイプがあります。 ジンククロメート顔料は鉄の表面を不動態化してさびの発生を押さえますが、本質的に水に溶けやすく、水がかりや結露しやすい箇所には不向きです。

 

(g)鉛丹ジンククロメートさび止めペイント

 さび止め顔料としてジンククロメートと鉛丹が使用されており、鉄鋼構造物や船舶の鉄鋼部分などの地塗りに使用されます。このタイプも、合成樹脂系のみです。いずれにしても、ジンクロ系さび止めペイントは減少の一途を辿っています。


(h)鉛酸カルシウムさび止めペイント(JIS K 5629)

 さび止め顔料に鉛酸カルシウムが使用されていますが、鉛酸カルシウムが白色であるため、白色さび止めペイントとして使用できます。亜鉛メッキ用のさび止めとして用いられます。


(i)鉛・クロムフリーさび止めペイント(JIS K 5674)

 ここまで解説してきた鉛系さび止めペイントやジンクロ系さび止めペイントに含まれる鉛やクロムは人体に悪影響を与え、環境への悪影響もあります。 日本でも、脱鉛・脱クロムが進んできており、これに対応するため、2003年にJIS化されたのが「鉛・クロムフリーさび止めペイント」で、合成樹脂系です。 さび止め顔料には、りん酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、りん酸アルミニウムやシアナミド亜鉛など安全性の高いものを使用しています。防錆の考え方は、鉄面の不動態化です。

 

(j)水系さび止めペイント(JIS K 5621 4種)

 建築基準法の改正に伴いシックハウス対策として、屋内の鋼製面、亜鉛めっき面に使用できる水系さび止めペイントとして開発されました。平成19年版公共建築工事標準仕様書 第12節 つや有り合成樹脂エマルションペイント塗りに採用されています。この塗料の性能規格はJIS K 5621 4種に規定されています。

 

(k)ジンクリッチプライマー(JIS K 5552 1種、2種)

 さび止め顔料に亜鉛末を使用しており、1種はアルキルシリケートをビヒクルとした1液1粉末形で、無機ジンクリッチプライマーと呼ばれています。2種はエポキシ樹脂をビヒクルに使用した2液1粉末形又は2液形で、有機ジンクリッチプライマーと呼ばれています。 このさび止め塗料の特徴は高濃度の亜鉛末を含有しており、防食性に優れているので重防食塗装に用いられます。ただし、下地調整は1種ケレン(さびを完全に除去する)が必要になります。ジンクリッチプライマーは標準的膜厚が15μm以下の薄膜形です。

 

(l)厚膜形ジンクリッチペイント(JIS K 5553 1種、2種)

 ジンクリッチプライマーと同様ですが、膜厚に塗装できるので、防食性はこちらが優れています。

 

(m)構造物用さび止めペイント(JIS K 5551 : 2008 A種、B種、C種1号、C種2号)

 従来のJIS K 5551は、エポキシ樹脂塗料の下塗り用と上塗り用を規定としていたが改正により、種類はA種が反応形エポキシ樹脂系さび止めペイントの標準型(膜厚が約30μ)、B種が反応形エポキシ樹脂系さび止めペイントの厚膜形(膜厚が約60μ)、C種が反応形変性エポキシ樹脂系さび止めペイントまたは反応形変性ウレタン樹脂系さび止めペイントの厚膜形(膜厚が約60μ)になっています。なお、C種1号は常温形、C種2号は低温形です。 用途は橋梁、タンク、プランとなどの鋼構造物及び鉄、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金の建築などの金属部分に用います。 1種、2種は性能を発揮させるために、下地調整は1種ケレン(さびを完全に除去する)で用いますが、3種は塗り替えにも使用できます。 上塗りには、ウレタン樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、シリコン樹脂系塗料、ふっ素樹脂系塗料などが用いられます。

 

(n)変性エポキシ樹脂プライマー(JASS 18 M 109)

 エポキシ樹脂に変性樹脂を加えたさび止めペイントで、塗り替えに多く用いられます。エポキシ樹脂さび止めペイントは1種ケレンを前提にした下塗り塗料で、塗り替えには適用しにくい。 変性エポキシ樹脂さび止めペイントは変性樹脂を配合することで2種ケレン(強固に付着したさび、黒皮は残してよい)や既存塗膜が活膜ならその上から塗装できるように設計されています。また、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、亜鉛めっき鋼板などの各種金属への付着性が良いので、これらの下塗りに用いられます。 上塗りは油性系塗料からふっ素樹脂塗料までの広範囲に使用できます。


(o)エッチングプライマー(JIS K 5633 1種、2種)

 エッチングプライマーは金属塗装の際に、金属素地に対する付着性を増加する目的で用いる1種と、鋼板の素地調整後、本格塗装を行うまでの間、一時的に防錆する2種タイプがあります。1種タイプは、下地を清浄した後、直ちに塗装し、塗装間隔1時間以上8時間以内に次工程の塗装を行うので短曝形とも呼ばれています。2種タイプは、1種ケレンした後、直ちに塗装するが、次工程の塗装を行までの3ヶ月程度は放置できます。 したがって、このタイプは長曝形とも呼ばれています。 エッチングプライマーは素地の金属と反応するりん酸又はりん酸とクロム酸塩顔料を含み、ビニルブチラール樹脂などをビヒクルとする塗料で、主剤と添加剤の2液形になっている金属表面処理塗料です。


(p)その他の下塗り塗料

 ①雲母状酸化鉄塗料

 雲母状酸化鉄をさび止め顔料とした塗料で、ビヒクルにフェノール樹脂を用いたフェノール樹脂系雲母状酸化鉄塗料とエポキシ樹脂を用いた2液形のエポキシ樹脂雲母状酸化鉄塗料の2種類があります。 この塗料の特徴は、さび止め顔料が鱗片状であるため、塗膜中で層状に重なり合っており、水の遮断性が強く防錆性に優れています。また塗膜表面が粗面であり、塗り重ねた塗膜との層間付着性がよいので、重防食用途に用いられることが多いです。

 ②下地用塗料 油性系下地塗料 ・ ラッカー系下地塗料

 下地用塗料には、油ワニスに顔料を分散させた不透明・酸化乾燥性の液状又はペースト状の油性系下地塗料と、工業用ニトロセルロース、樹脂、可塑剤などをビヒクルとしたラッカー系下地塗料があります。 種類は、プライマー、パテ、サーフェーサー、プライマーサーフェーサーなどがあります。

 

 〇プライマー

 下地との付着性と中塗りとの付着性を良好にすると同時に、防錆を目的とした金属の下塗り用塗料です。

 オイル系のオイルプライマーとラッカー系のラッカープライマーがあります。オイルプライマーは乾燥が遅いが作業性に優れ肉持ちもよい。ラッカープライマーは乾燥は早いが作業性や肉持ちが劣る。その他合成樹脂の種類によって各種プライマーがあります。

 〇プライマーサーフェーサー

 プライマーとしての付着性・防錆性に、サーフェーサーとしての仕上がり性を高める機能を付与した下塗り塗料です。前述のサーフェーサーと同様です。

 

 

(2)下地調整用塗料

 〇金属用パテ

 パテはペースト状塗料で金属下地の傷やひずみを調整し、平滑な面を作り、仕上がり性を向上させるのに用います。パテには厚付け性と研磨性が必要なため顔料配合量が多く、高粘度であるためパテべらを用いて塗装します。オイル系のオイルパテと、ラッカー系のラッカーパテがあります。プライマー同様にオイルパテは乾燥は遅いが作業性肉持ちがよい。ラッカーパテは乾燥は早いが作業性、肉持ちが劣る。その他、合成樹脂の種類によって、エポキシ系パテ、ウレタン系パテ、ポリエステル系パテなどがあり、目的・用途によって使い分けます。

 〇サーフェーサー

 下塗りと上塗りの中間工程に使用される中塗り塗料で、上塗りの仕上がり性を高めるために用います。オイル系のオイルサーフェーサーとラッカー系のラッカーサーフェーサーがあります。オイルサーフェーサーは乾燥は遅いが、作業性、肉持ちよい。ラッカーサーフェーサーは乾燥は早いが、作業性、肉持ちが劣る。その他、ウレタン系サーフェーサーもあります。

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