2-2-1 ローラーを取り巻く環境
今後、塗料は環境への配慮からますます水性塗料が主流になります。
水性塗料は従来「エマルション」タイプが多く、「多機能形」「反応硬化形」「2液超低汚染形」などが市場で量販されるに従い、ローラーは「万能」から材料や用途に応じた「使い分け」の時代となっています。その背景には塗料のロスや飛散による養生の手間などから急速にスプレー工法が激減し、ローラー工法へとシフトされています。
また、ふっ素樹脂塗料やNB(厚膜)形塗料など、従来はローラー工法が採用されていなかった塗料も、最近ではローラー工法が普及しています。
2-2-2 ナップ型ローラーカバー
ナップとは繊維をパイル状にしたもので、従来は山羊の天然繊維を始めとして様々な素材が使われてきました。現在ローラーカバーに使用される主な素材は「アクリル」と「ポリエステル」に大別されます。一部防水用や高粘度用として「ナイロン」も使用されています。
どのローラーも100%使用ということは少なく、混用されているケースがほとんどです。
アクリルは溶剤に強く、耐薬品性にも優れています。ウールの特徴を持った合成繊維で水になじみますが、繊維自体はポリエステルに比べ強度は弱いです。
ポリエステルは耐溶剤・耐薬品性に優れ、水を含みにくい疎水性ですが、溶剤にはなじみやすい性質があります。繊維の強度はアクリルの約3倍もあり、毛抜けや毛切れが少なく耐久性があります。
ナイロンは工業生産されている繊維の中で最も強い部類に属し、強さは濡れてもほとんど変わらず、摩擦や折り曲げなどに対しても非常に丈夫で、耐薬品性及び耐油性にも優れています。
塗料と素材の相性関係
塗料/素材 | アクリル | ポリエステル | ナイロン |
水性エマルション塗料 | 〇 | △ | × |
多機能形水性塗料 | △ | 〇 | × |
反応硬化形水性塗料 | △ | 〇 | × |
ターペン形アクリル塗料 | 〇 | 〇 | × |
ターペン形ウレタン塗料 | △ | 〇 | × |
強溶剤形塗料全般 | △ | 〇 | × |
防水材・高粘度塗材 | × | × | 〇 |
〇・・・相性が良い △・・・相性があまり良くない ×・・・相性が悪い
2-2-3 原反(げんたん)
ローラーはナップ(以下原反という)を製造する機械の違いから編物と繊物に大別されます。
編物は「ハイパイル」といわれる編物で、織物は通称「ウーブン」といわれています。
「ハイパイル」の毛の形状は綿状に対して「ウーブン」は糸状になっています。糸は「より糸」と「無撚糸(むねんし)」に分かれています。
編物(ハイパイル)は糸状の繊維が複雑に絡み合って、いわば綿状になっている編物構造(ニット)であります。含みの良さ、扱いの点でいままでのローラーの主力になっています。仕上り面はローラー特有のゆず肌模様(ローラーマーク)となります。
織物(ウーブン)は縦横に交差する織物の目から糸が毛状に立ち上がり、それをより合わせています。無泡ローラーなどにも使用されている織り方で、泡がかみにくく、毛抜けや塗料の飛散も少なく、仕上り(ローラーマーク)は木目細かいのが特徴です。
原反構造による塗装性能比較
組織/塗装確認項目 | 被り性 | 仕上性 | 後れ毛 | 気泡 | 飛散性 |
編物(ハイパイル) | 厚い | ゆず肌調 | 初期あり | 速乾であり | ある |
織物(ウーブン) | 薄い | 平滑調 | 殆どなし | 殆どなし | 少ない |
2-2-4 毛丈
原反の長さは大きく分けて長毛(20mm以上で18mmや40mmが主流)、中毛(10~19mmで13mmが主流)、短毛(9mm以下で5mmが主流)の3種類に分かれていて、被塗面の状態や仕上がり用途に応じて使い分けます。
長毛はブロックの表面やコンクリートの打ちっ放し面など、粗面の塗装向けです。
中毛は粗面から平滑面までを万能用として多く使用されています。
短毛は塗料の含みは悪いですが、平滑な塗装面、例えば鉄板や塗り壁、平らな木板などを綺麗に仕上げるときに使用します。一般にパイル長が短いほどローラーマークが細かく、仕上りは綺麗になります。
2-2-5 ローラーカバーの種類
(1)レギュラータイプ(コア内径38パイ)
欧米から輸入されたころから幅広く使われてきた紙管タイプ(プラスティック管もあり)のローラーです。カゴ形の専用ハンドルを使用します。
(2)スモールタイプ(筒径15パイ)
小回りのきく細口径形。出隅、入隅、ダメ込み、タッチアップなどに最適です。狭く入り組んだ場所や見切り部分の、シャープで美しい仕上がりを得るために先端部にパイルを押し込んであります。
ワイヤー形状のハンドルにワンタッチで脱着可能で、軽くて作業性の良さから最近では最も多く使用されています。
(3)ミドルタイプ(筒径26パイ)
レギュラーとスモール両タイプの特性を活かしたオールラウンドに塗装する軽量・中間タイプです。広面積から小面積、入隅や入り組んだ場所も綺麗に仕上がります。
2-2-6 特殊ローラーカバー
(1)砂骨ローラー
砂骨材入り塗料や弾性タイル材を塗装するのに最適な多孔質ローラーです。塗料含みが良く、厚膜の塗装が下地塗りを兼ねて1回で可能、被塗装面・仕上がりにあわせて、標準目・細目・極細目の3タイプがあり、タイプはレギュラーとスモールで、コーナー用(そろばん型)もあります。
(2)パターンローラー
多様なデザイン壁を比較的簡単に製作できるもので、各種の表面模様のものが発売されています。
(3)ヘッドカットローラー
パターンローラーなどで塗装した塗面の凹凸面を押さえて滑らかにし、仕上りに変化を与えるローラーで、材質はプラスチック棒や管を使用しています。
(4)その他の特殊ローラー
縮緬模様仕上げ用でスチップル塗装に最適なスチップルローラー、水性専用のスポンジ製モルトローラー、アングル部やCチャンネル用の専用ローラーやパイプなどのR面・曲面部が能率的に塗装できるクッションローラーなどがあります。
2-2-7 ローラーの選び方
被塗物の塗料の物性に応じて選ぶことが重要であり、前項で説明した毛丈の違いや原反の材質及び組織の違い(編物・織物)により最適なローラーを選ぶことが重要です。
ローラーの材質による選択としては、溶剤形や環境対応形塗料ではポリエステルの相性が良く、エマルションなどの水性塗料においてはアクリルの相性が良いです。
組織の違いによる選択としては、凹凸のある外装面では含みと作業性に優れているハイパイルローラーが、内装などの仕上げではローラーマークが木目細かく平滑性に優れたウーブンローラーが好ましいです。
最近では外装に対応した飛散の少ない毛丈20mmのウーブンタイプの環境対応型ローラーが販売されています。