2-1-1 はけの材料(原毛)
はけに使用されている毛は、主に馬毛・山羊毛・豚毛の獣毛と、ポリエステル・アクリル・ナイロンなどの化学繊維(以下、化繊)が使用されています。はけの多くは、用途の特徴に応じて各種原毛を組み合わせて(混毛)製作されています。
原毛の種類と特徴
種類 | 名称 | 特徴 |
馬 | 尾毛 | 耐水性に富み弾力性に優れ、毛が長いのでペンキ刷毛に最適な高級原毛。 |
振毛 | 耐久性に富むが、尾毛に比べややソフト。尾毛の次に使用される。 | |
胴毛 | 毛先がビロードのように滑らかで、主にシマ毛金巻に使用される。 | |
足毛 | 馬蹄毛(ばていもう)という。足の蹄より少し上に生えている毛で最高級原毛。 | |
山羊 | ヤンオ | 比較的腰があり、白毛高級刷毛に使用されている。 |
ヤンス | ヤギのあごひげ。腰が強く艶のある高価な原毛。 | |
スペシャル | ヤギの脇腹部の毛。毛玉の中の増量材として使用されている。 | |
白細 | ヤギの背中部の毛で、ニス刷毛の主材料。 | |
上爪峰 | つま先部分の毛。腰があり耐久性に優れる。 | |
豚 | ― | 馬毛よりも硬く、弾力性が強く毛先が割れているので、高粘度塗料に最適。 コッピー・ダスター刷毛に多く利用されている。 |
化繊 | ― | 獣毛に比べ耐摩耗性があり、繊維の吸水率が低いため水系塗料向けとして 多く使用されている。ポリエステル・アクリル系・ポリプロピレンが主。 |
従来、建築塗料は溶剤形が主であり、獣毛刷毛が多く使用されてきました。現在でも溶剤形塗料で使用されるのは獣毛刷毛が多いです。近年、水性反応硬化形塗料の増加により、水性塗料用として薬品にて先付け加工された化繊を使用した刷毛が多く使用されるようになってきました。
その背景には、獣毛繊維は吸水性が高く、毛表面の凹凸などにより塗料含みは良いが、速乾タイプの多い水性塗料では短時間で毛が固まりやすいことから、水性塗料には化繊の刷毛が使用されるようになりました。しかし、化繊が固まりにくい反面、毛表面の凹凸がないため、塗料含みが悪いという欠点があります。
最近では獣毛に特殊処理をすることで、獣毛の持つ塗料含みの良さを生かし水性速乾塗料でも固まりにくい刷毛が製品化されています。
2-1-2 はけの形状
寸筒(すんどう)刷毛・・・毛を厚く植え、腰が強く、塗料含みがよい。
平(ひら)刷毛・・・毛は寸筒刷毛よりやや薄く幅が広い(ラスターや目地刷毛も平刷毛)
筋違(すじかえ)刷毛・・・柄に対して斜めに毛がとじてある。
ローラー塗装が主流になってから、寸筒刷毛や平刷毛の需要は減少しています。近年では筋違刷毛(隅切用含む)や目地刷毛などが多く使用されています。
2-1-3 はけのサイズ
はけのサイズ表示は一般に号数で表現されていますが、最近は関西タイプ・DIY向け商品についてはメートル表現が主になっています。はけのサイズは、柄の毛玉をとじる部分の寸法が基準となっていますが、表示寸法と実寸法が若干の差があるので、目安として考えてください。
はけのサイズ一覧
号数 | 尺寸表示 | メートル表示 (単位mm) |
号数 | 尺寸表示 | メートル表示 (単位mm) |
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関東 | 関西 | 関東 | 関西 | ||||
3号 | 3分 | 10 | 9 | 20号 | 2寸 | 55 | 49 |
5号 | 5分 | 15 | 13 | 25号 | 2.5寸 | 70 | 60 |
8号 | 8分 | 25 | 22 | 30号 | 3寸 | 84 | 75 |
10号 | 1寸 | 30 | 27 | 35号 | 3.5寸 | 100 | 89 |
12号 | 1.2寸 | 36 | 32 | 40号 | 4寸 | 115 | 102 |
15号 | 1.5寸 | 42 | 37 | 50号 | 5寸 | 145 | 129 |
16号 | 1.6寸 | 48 | 43 |
筋違刷毛と平刷毛には関東型と関西型があり、関東型は関西型より大きいです。例えば、尺貫法で2寸の刷毛を関東型は1.8寸、関西型は1.6寸で作り、20号(50)と表示しています。
2-1-4 はけの選択
塗料の変化と需要家のニーズが多種多様化しており、品種は数多く販売されています。
毛丈や毛厚など自分の好みにあったはけを選択することが大切ですが、塗料の性質に応じてはけを選択することが最も重要です。
油性調合ペイント(俗に「ペンキ」「OP塗り」)の時代は、粘度が比較的高く、厚塗りタイプのため、馬毛を主体とした腰の強いはけが主流でした。その後、合成樹脂調合ペイントが登場し、その塗りやすさから使い出しがよく腰もソフトな山羊毛のはけが主流となり、現在でも溶剤形塗料においては山羊毛を使用したはけが比較的好まれています。
水性アクリルエマルション塗料(EP塗り)は、獣毛の中でも耐水性の良さで馬毛のはけが多く使用されていましたが、反応硬化形塗料の超速乾タイプは馬毛でも硬化しやすいため、近年ではアクリルエマルション・反応硬化形ともに化繊はけが主流になっています。
塗料種別 | 毛質種類 |
溶剤形塗料 | 馬毛・山羊毛 |
弱溶剤形塗料(ウレタンなど) | 馬毛・山羊毛 |
水性アクリルエマルション塗料(EP) | 馬毛・化繊 |
水性反応硬化形塗料 | ポリエステル系化繊 |
水系弾性塗料 | 豚毛 |
溶剤形ニス(ステイン) | 山羊毛 |
水性ニス(着色ニスなど) | 山羊+化繊 |
薬品(酸性のアク洗い剤など) | アクリル系化繊 |
見出し
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2-1-5 使用上の注意点及び手入れ方法
(1)使用前の注意点
はけは長時間使用すると、塗料が根元にたまって硬化し、毛先がまとまらなくなるなどの不具合が生じやすくなります。使用前に塗料の希釈剤(水・シンナー)に浸してから使用するとはけの根元硬化がしにくくなり、長時間スムーズな塗装が可能です。
(2)使用中の注意点
使用中、塗料や希釈剤に浸漬しないでそのまま空気中に放置すると、短時間でもはけが固まるおそれがあるので、塗料や希釈剤に浸漬しておく必要があります。水性塗料の場合、完全硬化をしていない場合に限り、ラッカーシンナーに数時間浸漬した後に洗浄し、陰干しをすればある程度復元が可能です。次に使用するときは、ラッカーシンナーが完全に蒸発(揮発)したことを確認してから使用します。
(3)使用後の手入れ方法
はけを使用した後は、はけ内の残留塗料をよく掻き出した後、使用塗料の希釈剤で根元までよく洗い陰干しします。1ヶ月以内に再塗装するのであれば、はけ内の残留塗料をよく掻き出した後、毛が隠れるぐらい使用塗料の希釈剤に漬けておくだけでよいです。ただし、獣毛刷毛で水性塗料を塗装した場合、夏場の暑い時期は塗料の混ざった水は腐食しやすく、その影響で毛も傷んでしまい「毛切れ」「むれ毛」の原因になるため、こまめに水を交換することが望ましいです。