1.概要

 元来、我が国の建築は神社仏閣をはじめとして、木造一筋に発達してきた。それらの建築の彩色は、古くは丹塗りで行われ、近世以降の権威を象徴する建物には高価な漆塗りが行われてきた。一般の民家などでは、内部は漆塗り、外部には渋塗りで美装保護が行われてきた。

 丹塗りとは、丹(鉛丹)をにかわ液に練入させた伝統的な塗料である。赤色顔料として鉛丹、朱、弁柄が用いられ、現場調合で独特の色彩をもつ塗材を調合して用いたものである。丹塗りの塗膜は顔料分が多く、樹脂分が少ないので塗膜は多孔質となり、適度の通気性を有する。この点が木材に適する丹塗りの特徴の一つである。すなわち、木材内部の水分は塗膜を通して緩やかに発散されるため、塗膜の膨れが生じにくい。また、顔料主成分の鉛丹は、木材に対して防腐剤的な役目を果たしている。

 外部用木材に対する塗装設計において、まず考えておくべきことは、丹塗りの例からもわかるように、木材は呼吸する材料であるということである。金属に対しては、さびの発生要因である酸素・水・亜硫酸ガス・塩類などを素地面に到達させないように、付着性のよい下塗りと、耐候性のよい上塗りの選択、及び膜厚などを考慮して塗装設計が行われる。一方、木材は塗膜と同じ有機物であるため、塗料はよく付着する。

 木材は、吸湿と脱湿によって膨張と収縮を繰り返し、塗膜がこの動きに追従できないと割れてしまう。金属に対しては高性能な塗料であっても、木材に適用すると塗膜が割れたり、はがれたりしてしまう。超耐候性のふっ素樹脂塗料で塗装しても、3~4年程度で塗膜がはく離し、白化する。木材が吸収した水分を空気中に素早く発散させれば塗膜剥離を生じないが、水蒸気が透過しにくいために付着界面に水分がたまり、膨れを発生し、はく離に至る。

 昔から、外部用木材にはオイルステイン、スーパーワニスや油性調合ペイントなどの油を原料とする塗料が実績を有してきたことを考えると、塗装効果を発揮する塗料には次のような特徴がある。

 ①木材表面に皮膜をつくらないで、木材中に含浸することによって防水及び防腐剤の役目をする。ペリーの木造黒船には木タールが塗られていた。

 ②乾燥油を重合したボイル油を主原料とする油性ワニスや油性調合ペイントが形成する塗膜は、ゴムのように伸びたり縮んだりすることができ、収縮に追従できる。

2.木構造物の塗装

 木構造物に油性塗料が使用されたのは、1853年ペリー来航以降のことで、古くは渋屋・塗師屋が西洋建築の勃興につれて塗装職人になったといわれている。

 昭和20年代には町場の塗装職人が渋金・渋辰などの名入りの半天を着用して仕事をする姿がよく見られたものである。塗料は油性調合ペイントを使用していた。昭和25年ごろより現在のアルキド樹脂塗料が登場し、次第に各種の合成樹脂塗料が登場してくるのである。

 一般の住宅は、いわゆる在来工法(在来軸組工法)を呼ばれる建築構法で建築されたものが主体で、建築用材には、マツ、スギ、ヒノキなどが用いられ、木質系の外装には主にスギ材の下見板が使われ、その上に油性調合ペイントが塗られていた。また、スギ材による外塀には柿渋による黒色仕上げが行われ、独特の美装効果をもっていた。

3.住宅建築の推移

 戦後の住宅産業の本格的な発展で、新規住宅は急増し、やがてプレハブ住宅の全盛時代となった。昭和40年代の高度成長期に入って、建築様式や建築資材の多様化から建築用塗料の品種も大幅に増加した。外装仕上げ用の塗料は、薄膜から厚膜形へ研究開発の重点がおかれ、各種の機能をもった建築用仕上げ塗材が開発されている。

 しかし、住宅建築では、在来工法によるものは次第に減少する傾向にあり、住宅は工業製品化され、工業化住宅が急速に発展してきている。

4.在来工法の住宅建築工事

 在来工法は、柱や横架材による軸組、小屋組の構築に従来の継手、仕口を利用し金物で補強した木造軸組工法である。

 在来工法の木造軸組住宅は、プレハブ工法住宅の3倍、2×4工法(ツーバイフォー)住宅の2倍の労力が掛かるとされている。在来工法にも、従来、現場で行われていた大工職の木工事の一部を工場加工で行い、省力化しようとする動きがある。延べ150㎡程度の木造住宅でも下請業種の数は約20種ほどにもなって、作業者の数は延べ1000人にも達するものとなる。完了までの工期も長く、3か月余りも必要である。

5.在来工法の住宅塗装

(1)外部の塗装

 塗装の対象とされる素地の種類は木部、金属、セメント系の3種である。金属面の塗装部位は、屋根、ひさし、ベランダ鉄部、面格子(木製の場合もある)で、屋根、ひさしがカラートタンに、ベランダ、面格子がアルミ建材の製品に置き換えられれば、塗装部位は大きく減少し、木部、モルタル面に限定される。

 木部の塗装は合成樹脂調合ペイント塗り(SOP)、1液型ウレタンワニス塗り(1-UC)、2液型ウレタンワニス塗り(2-UC)、木部保護着色剤(WPステイン)塗りが主に用いられる。

 近年多用されているWPステイン塗りは、着色と同時に木部の防腐・防虫保護の役目を果たすものである。この塗料は作業性も容易で、維持・補修の塗替え塗装に適した塗料である。防水と水分排出の両機能を持つもので、木材用塗料として好ましい特性をもっている。

 3回塗りが標準の塗装仕様では、木材に十分な量の塗液が浸透するよう塗装しなければならない。素地の乾燥が必要であることはいうまでもない。色調はクリヤから濃色のものまで各種あるが、濃色のものほど耐久性がある。無色に近いクリヤ系のものは耐久性に乏しい。塗替えは4~5年前後で行えば理想的である。

 モルタル面のリシン吹付けでは、素地の乾燥を十分に行って、シーらー塗り→下吹き→上吹きの工程を確実に施工すれば、7~8年の耐久性は確実である。塗替えの最良期は6年前後とされている。作業の要点は吹付け前の養生(マスキング)である。和風住宅の塗装部位は、形状が変化に富み複雑なため、各部材の養生に相当な労力が必要となることを忘れてはならない。養生作業の見積もりが大切である。

 別荘・ログハウスなどは塗装面積も大きいが、塗装はWPステイン塗りが中心で、腐食防止に重点をおいた塗装が多用される。別荘地などは都会と異なり、朝夕は高湿度の環境となりやすい。木材の乾燥を考えた作業時間の管理が大切である。

 

(2)内部の塗装

 内部の塗装部位は、日本間、洋間、廊下(1,2階)、階段、台所、便所、玄関内外、その他である。

a.日本間の塗装

 日本間の塗装は本来、清めの洗いのみで、場合によってワックスによる磨きの仕上げが追加されるが、天井、柱、長押などに塗り仕上げが行われることは少ない。アクリル系クリヤラッカーのつや消し仕上げを、素木仕上げと称して塗装することも多いが、厚塗りは好まれない。

 日本間の仕上げは、素木仕上げが基本である。構成材料であるヒノキ、スギなどの高級材の固有の美しさ、質感を厚塗りで壊したくないからである。しかし、昨今では天井、柱、その他を濃褐色のステインでふき上げ、その上につやなしクリヤラッカー塗り、つやなしワニス塗りで仕上げる古色仕上げが行われることも多い。

 この場合、一般的に壁面は左官工事の漆喰仕上げである。柱と壁との対比を強調した仕上げで、意匠効果も優れている。床の間では漆塗り、又は漆塗り様の塗装が天板、地板に行われる。

 階段、廊下はウレタン系の透明仕上げが行われるが、塗料には無黄変タイプの2液型ポリウレタンワニスを用い、最後に塗膜の研磨による磨き仕上げを行う。磨き仕上げは、いわゆる塗りっぱなし仕上げのてりを取った上品な仕上げを目的として行うものである。

b.洋間の塗装

 塗装の部位に応じて、透明、不透明の塗装がおのおの施工される。つくり付け家具や入口扉などの素地は、チーク、ケヤキ、タモなどの高級の突き板面で、つやを調整して透明仕上げを行う。

 各種塗料の塗装仕様は、JASS 18の「木質系素地面の塗装」を参照すればよい。不透明塗装は一般に、合成樹脂ペイント塗りが用いられるが、高級仕上げには、フタル酸樹脂、ラッカーエナメル仕上げが適用される。塗付けは、はけ塗りよりも吹付け仕上げが一般的である。高級仕上げでは、標準的なものより、一段と質感に優れた美しさを求められる。塗り工程で下塗りから中塗りまでの下地層形成の工程がポイントで、研磨作業を含む手数のかかる仕事である。

6.工業化住宅

 現場施工主体で築き上げられる在来工法の木造建築は、多くの労力と工期を必要とする建築工法である。

 建築物の品質も、現場作業における各職種の能力の総合的なものが結果として表れるから、均一な品質を常時期待することは難しい。

 これに対して、工業化住宅は住宅の安全性・居住性・耐久性の性能は確保されやすい。基礎工事から完了までの工期も、在来工法に比べてはるかに短縮できるため、工業化住宅は増加・発展する傾向にある。建築塗装においても、今後塗替えの大いなる対象となる工業化住宅の現状を把握しておかなければならない。

 工業化住宅は、住宅生産工場で生産された部品・部材を建築現場に搬入し、あらかじめ決められた工程に従って、基礎工事から仕上げまで現場工事を進め、住宅を完成させるものである。

(1)工業化住宅の塗装

 工業化住宅の各部品・部材は、その大部分が工場塗装で施工されるので、現場塗装の分野は減少する傾向にある。今後、工業化住宅の塗装は、新規工事より塗替え工事に重点がおかれることになるが、現場塗装のものに比べて、工場塗装されたものの塗替えは難しいことを理解する必要がある。

 工場塗装では2液型塗料などの高性能塗料を使用するが、これは塗替え塗料とのなじみが悪く、付着力が低い。長い時間の経過により塗膜面に粉化、汚れ、浮き、割れなどの劣化が発生した段階で、塗り替える。工業化住宅では外壁材の種類が多く、表面の塗装仕上げも多様化しているので、その意匠性を維持するためにクリヤ仕上げとなることが多い。

(2)壁面の塗装仕上げ

 塗替え工事では、上塗り面が塗装下地となる。特殊仕上げには、そのほかに厚吹きスタッコ仕上げがある。工業化住宅では、工場生産による外壁パネルを現場搬入し、建方工事によって外壁を構成するため、左右のパネル間及び1,2階パネル間などに目地ができる。目地部はシーリング材などで防水性能が確保されているが、パネル間の目地が目立ちやすく、壁面としての一体感に欠ける仕上げである。

 外壁を目地のない大壁状に仕上げる目的で開発されたのが、厚吹きスタッコ塗装である。この塗装は現場施工によるもので、目地処理がこの工法の要点となっている。

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