元来、我が国の建築は神社仏閣をはじめとして、木造一筋に発達してきた。それらの建築の彩色は、古くは丹塗りで行われ、近世以降の権威を象徴する建物には高価な漆塗りが行われてきた。一般の民家などでは、内部は漆塗り、外部には渋塗りで美装保護が行われてきた。
丹塗りとは、丹(鉛丹)をにかわ液に練入させた伝統的な塗料である。赤色顔料として鉛丹、朱、弁柄が用いられ、現場調合で独特の色彩をもつ塗材を調合して用いたものである。丹塗りの塗膜は顔料分が多く、樹脂分が少ないので塗膜は多孔質となり、適度の通気性を有する。この点が木材に適する丹塗りの特徴の一つである。すなわち、木材内部の水分は塗膜を通して緩やかに発散されるため、塗膜の膨れが生じにくい。また、顔料主成分の鉛丹は、木材に対して防腐剤的な役目を果たしている。
外部用木材に対する塗装設計において、まず考えておくべきことは、丹塗りの例からもわかるように、木材は呼吸する材料であるということである。金属に対しては、さびの発生要因である酸素・水・亜硫酸ガス・塩類などを素地面に到達させないように、付着性のよい下塗りと、耐候性のよい上塗りの選択、及び膜厚などを考慮して塗装設計が行われる。一方、木材は塗膜と同じ有機物であるため、塗料はよく付着する。
木材は、吸湿と脱湿によって膨張と収縮を繰り返し、塗膜がこの動きに追従できないと割れてしまう。金属に対しては高性能な塗料であっても、木材に適用すると塗膜が割れたり、はがれたりしてしまう。超耐候性のふっ素樹脂塗料で塗装しても、3~4年程度で塗膜がはく離し、白化する。木材が吸収した水分を空気中に素早く発散させれば塗膜剥離を生じないが、水蒸気が透過しにくいために付着界面に水分がたまり、膨れを発生し、はく離に至る。
昔から、外部用木材にはオイルステイン、スーパーワニスや油性調合ペイントなどの油を原料とする塗料が実績を有してきたことを考えると、塗装効果を発揮する塗料には次のような特徴がある。
①木材表面に皮膜をつくらないで、木材中に含浸することによって防水及び防腐剤の役目をする。ペリーの木造黒船には木タールが塗られていた。
②乾燥油を重合したボイル油を主原料とする油性ワニスや油性調合ペイントが形成する塗膜は、ゴムのように伸びたり縮んだりすることができ、収縮に追従できる。