はけ塗りは、古くから行われてきた塗装方法で、どのような製品でも自由に塗装できるという特徴を持つが、熟練した技能がなければ美しく仕上げることはできない。
(1)はけの選び方
はけは用途によって毛質、形状が異なるため、塗る材料によって選択することが大切である。また、はけを選ぶ場合、次のことに注意する。
①毛質がそろっていること。
②切れ毛のないこと。
③毛の植えてある部分の締め具合が完全で、脱毛のないこと。
④手触りがよく、水を含ませて振っても、毛先が割れないこと。
(2)はけの運び方
塗料をはけで被塗物に塗る作業は、次の3段階に分けられる。
①塗料を配る作業(塗付け)
②塗料を平均にならす作業(ならし)
③はけ目を通す作業(むら切り)
これらの作業は、塗料の流動性(粘度)や揮発速度などに十分注意して行わなければならない。
a.乾燥の遅い塗料のはけ塗りの場合
(a)塗料の含ませ方
塗料(油性ペイントなど)をはけの毛先から毛丈の2/3ぐらいまで含ませ、容器の内側で毛先を軽くたたき、塗料がたれない程度まで、はけに含まれている塗料を取り除く。
(b)塗料の配り方(塗付け)
水平面の場合は左右に配るのが原則である。垂直面でははけを下から上へと一はけ(1往復)ごとに塗料を配る。広い面積の場合は、約80を一塗り区分として配り、長短がある場合は、長手の方向に配るのがよい。
(c)塗料のならし方
配りの方向とほぼ直角に、塗料を含まないはけで均一に配った塗料を広げる。もし、この際塗料が不足しているときは、塗料を配り、さらにならしを行う。
(d)塗料のむら切り方
最後に、均一な塗膜にするために、また、はけ目を整えるために、むら切りを行う。塗料をよくしごいたはけで、隅から隅まで平行にはけ目を通す作業である。途中で、はけ継ぎのないようにしなければならない。高級仕上げの場合には、むら切りばけと称する平ばけを用いることもある。
このように、乾燥の遅い塗料の場合は、各段階に分けて作業を行うことができる。
b.乾燥の早い塗料のはけの使い方
(a)塗料のふくませ方
油性ペイントの時と同じように、毛丈の約2/3まで塗料を含ませる。次に、容器の淵や容器に渡した棒で軽くしごき、塗料が垂れない状態にする。
(b)塗料の配り、ならし、むら切り
溶剤の揮発が早いので、配り、ならし、むら切りを別々にやっているとよい仕上がりにならない。これらを別々にやらずに、同一方向にはけを動かし、一はけごとに仕上げていく。また、塗り継ぎ、はけ塗り中に生じる気泡を消すことも同時に行う。
(3)はけ塗り順序と注意点
はけで塗装をするには、被塗物の大きさ、構造などによって塗る順序が異なってくる。
一般に、はけ塗りの順序と注意点は、次のとおりである。
①塗りにくいところから始める。
②接合部は通し方向にはけを使う。
③下塗りは塗膜の厚さをそろえる。
④中塗り、上塗りは、仕上がりを前提にしてはけを使う。
⑤塗料の粘度に合う毛質を選ぶ。
⑥同じ毛でも毛丈の長いものは、短いものより低い粘度の塗料に使うとよい。
⑦はけに加える力が強すぎると、はけ目が目立ちすぎることがある。
⑧塗り分けするときは、塗料の含みを少なめにし、呼吸を整え、ひじと肩で引くようにする。
⑨箱形の隅やへこんだ部分などを塗るときは、毛の弾力性を利用し、毛先を使用する。
⑩はけは、はけの重心をもつ。そのほうが疲れが少なく能率が上がる。
⑪一般に、毛先の摩耗は中央が激しい。
毛先が水平にそろっていなければ、きれいな仕上げは望めないので、毛先の摩耗が平均になるように、はけの運びを工夫しなければならない。
(4)はけの取扱い方と手入れの仕方
●新しいはけを使用する場合
①まず毛についている防虫粉、灰分などを取り除く。
②はけに塗料を付け、板の上でもみ出しを行い、抜け毛を取る。指先であらかじめ取れそうなものは取っておく。
③毛が抜けないように焼きごてではけの頭を焼き固める。あるいはセラニックニスなどを塗っておく。
④新しいはけは、はじめ下塗り、中塗りなどに使用して毛先の両面が少し摩耗し、はけが塗料に十分になじんできてから上塗りに使う。
●使用したはけを手入れする場合
①油性塗料に使うはけは、毛をウエスなどで巻き、1週間ぐらいボイル油かあまに油の中につけておく。
②油性ペイントなどの色替えをする場合、はけをそのつど溶剤できれいに洗ってから使用するのでは時間がかかるので、前の塗料をへらでよくしごき落とし、次に塗る塗料をはけに含ませ、定盤の上で突出しを行う。この作業を何回か繰り返す。時間的にロスが少なく、かつ材料の節約にもなる。
③使用したはけは、塗料容器の縁でよくしごき、はけから塗料を出す。続いて定盤の上で、木べらの毛のつけ根から毛先へ向けて数回しごき、はけの表裏から塗料を突き出す。また、はけの側面からも同様に行う。
④はけは、用途の応じて適当な容器に入れて保管する。このとき、容器の底にはけ先が触れないようにすることが大切である。ラッカーなどの揮発性塗料に使ったはけは、密閉した容器の底にラッカーシンナーを含んだ布を置いて保管する。
⑤油性ペイントなどに用いたはけを、作業の関係上、短期間保管するときは、木べらを用いて、はけに含まれている塗料を定盤の上でよくしごいて突き出し、はけが乾かないように水につける。次に使用するときは、水をよくしごいてから使用する。
⑥水性ペイントの場合は、使用後、はけをよく洗浄しないと塗料が毛の中で固まり、使えなくなるおそれがあるため、水に1日ぐらいつけておく。次に水をよく切り、乾燥させて保管する。
⑦合成樹脂系の塗料を用いたはけの場合は、それぞれの溶剤でよく洗浄して保管する。