コンクリートとは、砂、砂利などの骨材を水硬性セメントで固めたものをいい、砂などの粒径5㎜以下の細かい骨材だけを用いたものをモルタルという。コンクリートはセメント、水、骨材を練り混ぜ、型枠に詰めて硬化させ成型物とする。

脱型した成型物の表面を打放しコンクリート面であり、塗装の素地面となる。

1.コンクリート構築物について

 コンクリートは、圧縮に対する強さは大きいが、引張りの力には弱い。コンクリートの中に鉄筋を入れて補強したものを鉄筋コンクリート(RC)という。これは圧縮に強いコンクリートの特性と、引張りや曲げに強い鉄筋の特性を生かした複合材料で、この材料を基本としてSRC(鉄骨鉄筋コンクリート)、CB(補強コンクリートブロック)構造が開発され、さらには工場でコンクリートパネルを生産するPC(プレキャストコンクリート)工法が、今日のビル建築の工期短縮に寄与している。

(1)RC造(鉄筋コンクリート造)

 コンクリートを鉄筋で補強したものを鉄筋コンクリート(RC:Reinforced Concrete)といい、このRCで主要な部材を構成する建物をRC造という。コンクリートの材質により、鉄筋コンクリートと軽量鉄筋コンクリートに大別される。

(2)SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)

 鉄骨造(S造)とRC造を組み合わせ、鉄骨骨組の周囲に鉄筋を配し、コンクリートを打ち込んだものをSRC(Steel framed Reinforced Concrete)といい、それらを主要構造部材とする建物をSRC造という。

 力学的には、鉄骨と鉄筋コンクリートが協力した構造体として働く。鉄骨と鉄筋の比率に標準的なものはなく、鉄筋コンクリートを鉄骨の座屈止め程度に扱ったものから、鉄骨断面が小さく、ほとんど鉄筋コンクリートに近いものまでかなり幅広い。一般には鉄筋コンクリートより粘りがあるため、高層建築に多く利用されている。

(3)PC(プレキャストコンクリート)

 あらかじめ工場で製作したRC部材を総称して、PC(Precast Concrete)という。壁パネル・床パネル・屋根パネルなどのPC板が工場で生産され、これらを現場で組み立てて構造体をつくる。なお、コンクリートには、普通コンクリート・軽量骨材コンクリート、あるいは気泡コンクリートなどを使用する。

 塗装施工にあたっては、建築物の部位によって仕上げが異なる。

 セメントまたはせっこうを原料とするパネルが、コンクリート建築物の壁や天井部に使用されている。

2.コンクリート構造物の劣化

 半永久的と思われていたコンクリート構造物も意外に早く劣化することが分かっている。コンクリート構造物のれ化現象は、おおよそ次の種類に大別される。

 ①ひび割れ ②中性化 ③アルカリ骨材反応 ④塩害 ⑤凍害 ⑥特殊環境下の劣化

(1)ひび割れ

 建物に発生するひび割れは、コンクリート構造物とこれを仕上げている仕上げ部材に発生するものの2種類である。コンクリート面と仕上げ部材のひび割れから水分、酸素、炭酸ガス、塩分、腐食性ガスなどがコンクリート層内部に浸透して、鉄筋のさびを誘発し、同時にコンクリートの中性化を促進する原因となっている。

(2)中性化

 大気中の炭酸ガスがコンクリートの表面やひび割れから浸透・拡散し、セメント水和生成物である水酸化カルシウムと化学反応を起こすことによって、中性炭酸カルシウムに変化する現象である。中性化は表層部から内部へと次第に進行する。

 Ca(OH)2+CO2 → CaCO3+H2O

 中性化が鉄筋部分に達すると、コンクリート強度が著しく低下し、コンクリートの強アルカリによって保護されている鉄筋の防食機能まで低下し、さびが発生するようになる。

(3)アルカリ骨材反応

 橋や高速道路などのコンクリート構造物は、打放しで半永久的に強度を維持できると考えられていた。ところが、昭和50年代の初めに、早期のコンクリート構造物にひび割れが発生する現象が多発した。その原因は、これまで日本に存在しないといわれてきたアルカリ骨材反応によることが判明して、一気に社会の関心がアルカリ骨材反応に集中した(昭和50年代後半)。

 アルカリ骨材反応とは、セメント中のアルカリ骨材の岩石中に含まれる反応性のシリカ鉱物とが反応して膨張し、その圧力のため、コンクリートにひび割れが発生する現象である。

 わが国では良質の骨材が不足しているため、山砂利や砕石を使用せざるを得なくなり、これらの中に反応性のものが含まれていることが原因となった。アルカリ骨材反応は、コンクリート構造物がかなりの高湿度の環境にさらされることと、また外部からの水分の供給がある場合に著しく促進する。

 しかしアルカリ骨材反応によるコンクリート構造物の破壊は、破壊伸びの大きい、厚膜仕上げの塗装系を施すことにより抑制できることが分かっている。

(4)塩害

 コンクリートのひび割れから海塩粒子などの塩化物が浸透すると内部鉄筋の腐食を招き、構造物の耐久性を低下させる。これからも分かるように、コンクリートの骨材に海砂を使用することは極めて危険である。健全なコンクリート構造物では、内部は強アルカリ性(pH12以上)で、鉄筋は保護され腐食しにくい。しかし、コンクリート中に塩化物イオンが一定量以上存在すると、鉄筋表面の不動態皮膜は破壊され、鉄筋は腐食しやすくなる。塩分はコンクリート構造物の寿命を著しく損なうものである。

(5)凍害

 コンクリート中の水分の凍結融解による風化現象である。一般に、構造物の水にさらされる水面上や水際線の上部に発生しやすい。コンクリート中に含有する水分が凍結すると、その膨張圧でコンクリートにひび割れが発生し、表層がはく離する。

(6)特殊な環境下における劣化

 コンクリートは、有害化学物質にさらされることにより劣化する。大気汚染物質や化学物質は、酸として作用する場合、コンクリートの表面は徐々に浸食され、表面劣化や強度低下の原因となる。

 特にコンクリートのひび割れは、構造物の耐久性を低下させる主因である。ひび割れの原因はいろいろあって、現在でも完全な防止対策は取れない状況である。

 塗料を塗る工法による表面仕上げ技術は、直接、間接的にきわめて有効な対策となるもので、加えて美観に乏しいコンクリート構造物に多彩な美粧性を付与するなど、保護と美粧の両面に大きな役割を果たしている。

3.コンクリート構造物の塗装

(1)コンクリート塗装の歴史

 かつて塗壁の塗装は、建築塗装において最もトラブルの多い仕上げであって、変色、膨れ、葉枯れなどの欠陥が多く発生した。

 昭和20年代や30年代の初期では、木部、鉄部への油性塗料や合成樹脂調合ペイント塗りが主体であったが、この種の塗料には耐アルカリ性がないため、アルカリ性素地であるコンクリート、モルタル、塗壁などに対する塗装は不可能であった。

 昭和30年代に入り、耐アルカリ性合成樹脂エマルション樹脂塗料や溶剤形のものも入手できるようになって、壁面塗装は次第に拡大発展し、今日に至っている。特にエマルション系塗料は、溶剤形に比べて作業性がよく、安全性も高く、さらに低臭性であるため建築用塗料の主流となっている。

 外壁面の化粧仕上げでは、昭和25年(1950)ごろより現場調合による吹付けリシン工法が普及したが、セメント系であるためエフロレッセンス(白華)の欠陥に悩まされ、調色も色数が不足し困難であった。昭和32年(1957)ごろからアクリルエマルション樹脂系の吹付けリシンが出現して、外装吹付け用塗材の主流を占めるようになった。

 昭和40年代に入り建築様式や建築用資材の多様化から、建築用塗料の品種も大幅に増加し、下塗り材、取材、上塗り材の3種の塗料からなる複層仕上塗材が普及して、多彩なパターンや意匠性に富む仕上げが可能となった。また、吹付け材と呼ばれる仕上げ材が必ずしも吹付け工法のみによって仕上げられるのではなく、ローラ塗り、こて塗りによっても施工されることが多くなったため、従来一般に吹付け材と呼ばれてきたものも仕上塗材と呼ばれるようになった。昭和59年(1984)に吹付け材から仕上塗材へとJISの大改正が行われたからである。

 昭和50年代にはアクリル樹脂系を主体とするものから、耐久性の向上を求めてアクリルウレタン、アクリルシリコン、ふっ素樹脂系へと開発が行われ、今日に至っている。

 昭和50年代に入り普及してきたコンクリート構造物の劣化の指摘を受け、ゴム状弾性をもつ弾性塗料が壁面のクラックから発生する漏水を防止する防水形の仕上塗材として多用されてきた。しかし、壁面内外部からの水の侵入等による膨れや鋭利な刃物などによる塗膜欠損等のトラブルが問題となり、今日、微弾性の塗料が多く用いられている。塗膜には低汚染、防藻、透湿性などの諸機能も付与されている。現在、建築用仕上塗材として多くの種類の製品が市販されている。

(2)コンクリート塗装の種類

 コンクリート構造物、特に外壁は一般建築用塗料による仕上げ(平滑面仕上げ)と、主に吹付け工法やローラ塗り、こて塗り仕上げの建築用仕上塗材によるものの2種に大別される。さらにコンクリート、セメントモルタル、ALCパネルなど無機質素地面を対象とする塗装があり、あらゆる種類の塗料と仕上塗材が塗装に適用できるということである。

4.建築用塗料による仕上げ

(1)透明仕上げ

 通常クリヤ仕上げ、又はステインクリヤ仕上げと呼ばれているもので、打放しコンクリート面の素材感と質感をいかした塗装であり、素地そのままと、素地着色の2種がある。

 塗装系はアクリル樹脂、2液型ポリウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、常温乾燥形ふっ素樹脂のワニス塗りである。必要に応じてこの系の塗装系に浸透性塗布形防水処理剤を組み合わせての複合塗装で、さらに塗装効果の向上を目的とする塗装がある。この場合、浸透性防水材が下塗りとなる。

 透明仕上げは素地の肌をいかす仕上げである。素地の状態がそのまま仕上げに影響するので、原則的にパテかいなどは行えない。素地の調整種別は、JASS18の規定で3種とする。塗膜の割れやはく離を避けるために、厚塗りを避け、素地に含浸して表面層に塗膜を厚く形成させないように塗装することが基本である。

 次に、浸透性塗布形防水処理剤の塗装について説明する。

 打放しコンクリートの表面から浸透する雨水などから構造物を保護するため、この種の塗装が行われる。表面からの吸水を防止することで汚れ、エフロレッセンス、凍害などの劣化を防ぐと同時に、素地仕上げの美観を維持するための塗装である。しかし、浸透性防水剤のみの塗装では、コンクリートの中性化、内部鉄筋の腐食、長期の美観保持は期待できないので、建築用塗料のクリヤ仕上げと併用して目的を達成するものである。塗装のポイントは、素地の清掃が第一であること、また塗装は通常2回塗りで塗布量を十分に保持しなければならないことである。

(2)コンクリートの不透明仕上げ

 建物の内外壁面や床面の不透明仕上げの目的は、美装を重点にするものと、特殊な環境下における保護機能のみを重点とするものの2種に大別される。

 高度な平滑鏡面仕上げを目的とするものでは、素地面の粗さを修正して平滑精度を得るために行うパテかい、パテ付けなどの下地形成工程が最も大切な塗装工程である。このために用いられる塗装材料が、各種のシーラーと建築用下地調整塗材(パテ)である。

 シーラーには、水系と溶剤系(1液形、2液形)のものがあり、水系のものではアクリル系が主流である。下地調整塗材には、セメント系(セメントフィラー)と各種合成樹脂系のものがある。合成樹脂系にはエマルション系と溶剤系があるが、エマルション系のものは、外部用として必要な耐水性の強度の点で劣るので、外部用パテには原則的に使用できない。ただし、つや有り合成樹脂エマルションペイント塗りでは、耐水性と光沢確保のため、つや有り合成樹脂エマルションパテが、一般の合成樹脂エマルションパテと区別して使用される。

 コンクリート造の寺院構造物の塗装では、高級な仕上げには漆状仕上げの美装性が要求される。このため、コンクリート素地を平滑にするための各種パテによる平滑面形成は、塗装工程中最も重要な工程で、パテによる地付け作業と乾燥後の研磨作業は繰り返し行われる基本作業である。へら地付け作業に習熟していないと、よい塗装を達成できない。

 コンクリート打放し面には主にセメントフィラーが用いられ、この工程でおおよその平滑面はつくられる。さらに平滑にするために塩化ビニル樹脂パテ、ポリウレタンパテ、エポキシ系パテなど、各種溶剤系パテが使用されるが、エマルション系パテに比べて乾燥が早いので、作業性が悪く、作業に一段と熟練が求められる。不飽和ポリエステル樹脂パテは、耐アルカリ性が劣るので、コンクリート用としては使用できない。

 塗装工程と手順は、JASS18を基本として決定する。

 外壁面の塗装では、美装性機能を長く保持する必要があるので、より耐久性に優れた塗装系へと移行する傾向がある。塩化ビニルエナメル、アクリルエナメルの塗装系から、より高度な2液型ポリウレタンエナメル塗り、アクリルシリコンエナメル塗り、常温乾燥ふっ素樹脂エナメル塗りが多用される傾向にある。

 もちろん、標準的な一般の塗装では、合成樹脂エマルションペイント塗り、つや有り合成樹脂エマルションペイント塗りが内外部用として使用されているが、合成樹脂エマルションペイント塗りは、外装用として使用より、むしろ内装用としての使用が一般的である。

 注目すべきは、現在建物内外のコンクリート、モルタル壁面用や無機質系建材用の塗料として弱溶剤で希釈できるアクリル樹脂系非水分散形塗料が多用されていることである。弱溶剤でも塩化ビニル樹脂塗料と同程度の性能が得られ、作業性がよいばかりでなく、水系エマルション系に比べて対汚れ性、耐水性、耐候性、防かび性に優れている。また塗替え塗装では、下地となる旧塗膜への適応範囲が広いので、塗替え用塗料としても優れている。

5.建築用仕上塗材の塗装

(1)仕上塗材及び用語の定義

 仕上塗材は、セメント・合成樹脂などの結合剤、顔料、骨材などを主原料とし、主として建築物の内外壁又は天井を、吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどによって立体的な造形性を有する模様に仕上げる塗材である。なお、骨材には、けい砂、寒水石、砂、陶磁器砕粒、色砂、軽量細骨材などがある。

 建築用仕上塗材は、次のように定義されている。「建築物の内外壁又は天井の表面に、ある種の造形的なテクスチャー・パターンを与えると同時に、必要に応じて着色を行う仕上げ材で、主として吹付け、ローラで施工する。」(JIS A 6909参照)

 そのテクスチャー・パターンは、砂壁状、ゆず肌模様、凹凸模様、凸部処理模様、月面(クレーター)模様、スタッコ状などがある。山の部分の厚さが1~10㎜程度の仕上げ材で、単層で仕上げるものと複層で仕上げるものがある。

 また、これらの用語は、次のように定義されている。

単   層:下塗り材及び主剤、又は主剤のみで仕上げるもの(薄付仕上塗材、厚付仕上塗材)

服   装:下塗り材、主材および上塗り材の3層で仕上げるもの(複層仕上塗材・厚付仕上塗材)

下塗り材:主として下地に対する主材の吸込み調教および付着性を高める目的で使用するもの

主   剤:主として仕上げ面に立体的又は平坦な模様を形成する目的で使用するもの。

上塗り材:仕上げ面の着色、光沢の付与、耐候性の向上、吸水防止などの目的で使用するもの。

 仕上塗材仕上げを行う各種下地の下地調整は、次のa~fを標準とする。

a コンクリート・プレキャストコンクリート部材下地

 (a)仕上塗材の仕上げ厚が薄い場合、特に型枠の目違い、ひずみ、気泡穴などを、セメント系下地調整塗材を用いて、仕上がりに支障がないように調整する。

 (b)屋内で、水のかからない箇所の下地調整には、合成樹脂エマルションパテ(耐水形)を用いてもよい。ただし、セメント系仕上塗材の下地調整には用いない。

 (c)部分的に下地補修や下地調整された面が、ほかの面と著しく吸い込みが異なる場合は、合成樹脂エマルションシーラーで全面に吸い込み止めを行う。ただし、仕上塗材の下塗材で代用できる場合は省略することができる。

b ALCパネル下地

 (a)外壁などのALCパネル面は、仕上塗材製造業者の指定により、セメント系下地調整塗材又は合成樹脂エマルション系下地調整塗材を全面に塗り付け、仕上がりに支障がないように調整する。ただし、外装薄塗材Sおよび防水形複層塗材RS仕上の場合は、あらかじめ合成樹脂エマルションシーラーを塗り付けた後、セメント系下地調整塗材を塗り付ける。

 (b)屋内の薄付け仕上塗材仕上げで、ALCパネルの通気性の確保などを目的として、下地調整塗材を省略する場合は、合成樹脂エマルションシーラーを全面に塗り付ける。

c コンクリートブロック下地

 全面に合成樹脂エマルションシーラーを塗り付けた後、セメント系下地調整塗材を塗り付ける。

d けい酸カルシウム板下地

 合成樹脂溶液系シーラーを全面に塗り付ける。

e せっこうボード下地

 (a)せっこうボードの目地を突付けとした場合は、その目違い、くぎ穴などは、合成樹脂エマルションパテ(一般形)を用いて処置する。

 (b)せっこうボードの目地をV形とした場合及びテーパーボードを用いた場合は、ボード製造業者の指定する材料を用い、不陸や目違いがないように平滑に調整する。

 (c)薄付け仕上塗材仕上げで、目地処理された部分と他の部分の吸込みむらなどを防止するために、全面に既調合のせっこうプラスターなどを塗り付ける場合は、仕上塗材製造業者の指定する材料・工法による。

f ガラス繊維補強セメント板・押出成形セメント板下地

 全面に2液型の合成樹脂溶液系シーラーを塗り付ける。この場合、仕上塗材の下塗材の要否は、仕上塗材製造業者の指定による。

 

(2)施工

 建築用仕上塗材の塗装は、素地ごしらえ終了後、下塗り(素地押さえ)、中塗り(主材塗り)、上塗り(仕上げ)の3工程で仕上げられる。

a 下塗り

 下塗りは、下地の吸収を均一にし、下地と主材との付着を補強する目的で行うもので、塗り残し、塗りむらのないように施工しなければならない。下塗り後、長時間放置すると必要以上に硬化が進んだり、汚れが付着したりするので、速やかに主材吹きを行う。

b 主材塗り

 主材塗りの主な目的は、吹き付けることによって種々の模様を形成することである。塗り見本と同様の模様になるように、指定された条件によって吹付けを行う。

 複層仕上塗材は、その模様に特徴があり、塗り見本によって工程・塗り回数・塗布量・模様・色などについて、責任者の承諾を受けておく。特に追加工事では、材料の発注・受け入れ・確認は塗り見本によって行う。

c 上塗り

 上塗りは、主材の耐久性を向上させ、耐汚れ性などをもたせるために行うものである。上塗り塗料には、溶液形とエマルション形であるが、主に耐候性のすぐれているアルカリ系・アルカリウレタン系が用いられる。最近では、ふっ素系上塗りも使用される。

 下塗り・中塗り・上塗りの各塗材は、同一製造会社の製品で統一することが原則である。

 

(3)仕上塗材塗装のキーポイント

 従来、鉄筋コンクリート造の構造物は、内外装とも左官工事のモルタルこて塗りで打放し面の下地調整が行われていた。打放し面に20㎜前後の厚みのモルタルがこて付けされて、打放し面の不陸、目違い、巣穴、欠けなどが補修され、併せて表面の平滑面が整えられていた。

 しかし、モルタル仕上げ工法は能率が悪く、工期短縮の要請にこたえられなかった経過があった。また、セメントモルタル塗りは、時間の経過とともにひび割れが発生し、コンクリート素地との密着も低下して浮きなどの欠陥を生ずることが多く、それが仕上がり塗装面の欠陥となって、工事上の問題点となっていた。

 コンクリート打込み用の型枠の精度が向上して、脱型後のコンクリート面の不陸、目違いなどの欠陥も大幅に改善されるとともに、次第に左官工法による厚付けの下地調整は、塗装による薄付けの下地調整へと転換されるようになってきた。

 合成樹脂エマルションパテは作業性もよく、コンクリート面の下地調整塗材として極めて有用なものである。しかし、外壁面用の下地として用いた場合、これを原因とする欠陥(膨れ、はがれ)が続出し、外部用としては適切ではなかった。これまで外壁面用のパテとして信頼のおけるものは、塩化ビニル系パテが唯一のものだったが、作業性が悪いため、使用されにくい状況であった。外部用下地調整材としては、セメント系のものが出現して、初めて信頼できるパテとして使用できるようになったといえる。

 幾多の改良がおこなわれ、昭和58年(1983)、JIS A 6916「建築用下地調整塗材」として品質基準が設定された。セメント系下地調整塗材による下地形成の工程は、コンクリート面塗装の最重要工程である。その重要性を忘れてはならない。

 

(4)セメント系下地調整塗材

 セメント系下地調整塗材は、別名セメントフィラーと呼ばれている。その構成材料は、粉体と混和液である。粉体はセメント、骨材及び増粘剤などの混和材料からなり、混和液はセメント混和用ポリマーディスパージョンで、アクリル系、酢酸ビニル系、合成ゴム系又はこれらの混合系のものである。セメントフィラーの使用では、セメントの特性に制約されることは当然である。材料の使用と保管は正しく行わなければならない。

 

(5)薄付け仕上塗材

 セメント合成樹脂などの結合材、骨材、無機質系粉体及び繊維材料を主原料としている。

 主として建築物の内外壁を吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどにより、原則として単層で、厚さ3㎜程度以下の凹凸模様に仕上げる薄付け仕上塗材である。

 層構成は、下塗り材、主材の2層構成である。薄付け仕上塗材のうち、現在最も多用されるものに、外装薄塗材Eと可とう形薄塗材がある。

a 外装薄塗材E

[長所]

①作業性がよく、施工管理が容易。火気及び大気汚染の心配がない。

②適用下地の種類が多い。

③比較的安価で色の種類も多い(陶石リシン仕上げはやや高価)。

[短所]

①セメント系リシン仕上げより汚れが付きやすい。

②寒冷時の作業に難点があり、5℃以下では丈夫な塗膜は形成しにくい。

b 可とう形薄塗材

 形成の中心をなす結合材は、ゴム弾性を有するアクリルゴム、アクリルエマルション樹脂である。

[長所]

①ゴム状弾性を有し、コンクリート構造物のひび割れに対する追随性がよく、防水性が高い。

②連続した塗膜は、コンクリートの劣化に対して抑制効果を果たす(中性化防止)。

③下塗り材、主材塗りの2工程の仕上げで、経済性が高い。

④主材着色なので施工が簡単。塗替え工事に最適である。

[短所]

①雨だれなどの汚染がつきやすい。

②シーリング、サッシの取合いの部分から、塗面の裏側に雨水が回って、膨れの欠陥が発生する。施工に注意が必要である。

 

(6)複層仕上塗材(JIS S 6909)

 複層仕上塗材には、セメント系、ポリマーセメント系、けい酸質系の仕上塗材もあるが、最も多用されるものは、合成樹脂エマルション形で、複層塗材Eと呼ぶ。

 主材に用いられる結合剤の種類から、複層塗材E、複層塗材RE、複層塗材RSと呼んでいる。

 耐久性能はE→RE→RSの順に高くなるが、施工単価も同様である。セメント、合成樹脂などの結合材及び骨材が主原料で、主として建築物の外壁を吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどによって3層で、厚さ1~5㎜程度の凹凸模様に仕上げる複層仕上げ塗材である。

 Eは結合剤が合成樹脂エマルション系で、REは反応硬化形合成樹脂エマルション形(エポキシ系)を成分とし、RSは合成樹脂溶液形(エポキシ系)である。

[特徴]

①E、RE、RSともパターン、性能、価格でバランスが取れていて、多彩な仕上げができる。

②Eは適応する下地の種類が多く、ALCパネルも適応する。しかし耐水性、付着性、強度はRE、RSに比べて劣る。

③RSは下地への付着力が最も強く、塗膜の強度も高く、ひび割れの発生も少ない。しかし付着力が強すぎるため、下地の強度が弱いときは、これを引きちぎってはく離する欠点がある。価格も高く、作業性もE、REに比べて劣っている。適応する下地の選択には注意が必要である。

④REは付着性、耐水性、強度も十分で、RSに比べて価格も低く有用である。また、RSでは表現が難しいヘッドカットの凸部処理が表現しやすい、などの利点がある。

 

(7)伸長形複層塗材

 結合剤にゴム弾性を有するエマルション(アクリルゴム、アクリル系、クロロプレン系)を用いるもので、そのほかは変わらない。

[特徴]

①ゴム弾性を有する主材層により、優れた防水性を付与する。

②コンクリート劣化要因に対する保護機能がある。

③耐久性のある多彩な仕上げが可能である。

④膨れなど欠陥が生じる場合があるため、施工に十分注意が必要である。

 

(8)厚付け仕上塗材(JIS A 6909)

 厚付け仕上塗材はセメント系、シリカ系、樹脂系の三つに大別される。一般名称は厚塗材E(内装、外装)で、俗称は樹脂スタッコと呼ばれる。セメント、合成樹脂エマルションなどの結合材及び骨材を主原料とし、主として建築物の内外壁を吹付け、ローラ塗り、こて塗りなどによって、原則として単層で、厚さ4~10㎜程度の模様に仕上げる厚付け仕上塗材である。結合材は複層塗材Eと同様である。

[特徴]

①作業性がよく、施工管理が容易である。

②適用下地の種類が多い。

③重厚な仕上がりで、色彩の種類も多い。

④主材着色で外的な損傷に対しても色変化が少なく、補修も容易である。

⑤トップコートを必要とせず、希望に応じて自由な色相が得られる。

⑥トップコートは仕上塗材の汚染防止と耐久性向上のために使用されるが、工場地帯では特にその効果は大きい。

 

(9)素地の種類と仕上塗材の選定

 各種の仕上塗材が吹き付けられる面は、コンクリート、モルタル、ALCパネルなどであるが、選択される吹付け材は、それぞれの素地に適応するものでなければならない。

 例えば、ALCパネル面に反応硬化形の吹付けタイルREや溶剤形の吹付けタイルRSで仕上げると、下地の強度が小さいため、凝集破壊が起き、はく離する恐れがある。

 また、せっこうプラスター・ドロマイトプラスター・しっくい及びせっこうボードなどの表面に、セメント系の強度の大きい材料を吹き付けると、はく離などの欠陥を生じ、ボードの表面がアルカリに侵されることもある。

 このほか、鉄板下地などは亜鉛めっき、又は防食、塗装などの処理を施す必要から、仕上塗材の種類が限定される。下地の種類に応じて、素地ごしらえを十分に行うことが必要である。

 

(10)建築用仕上塗材の効果

 建築用仕上塗材は、もちろん建築物の化粧仕上げを主目的とするもので、厚膜の造形的なテクスチャーをもっていることが、一般の建築用塗料の仕上げと異なるところである。

 しかし、今日建築用仕上塗材に期待するものは、従来の意匠的美粧効果のみでなく、建築物の耐久性維持も併せての複合効果である。中性化抑制の効果は、仕上塗材の種類に大きく関係し、合成樹脂エマルション複層仕上塗材(アクリル系・エポキシ系)の抑制効果は極めて大きい。

 また、つや有りエマルション塗料(GP塗料)や浸透性塗布形防水剤も膜厚の薄い割には、一定程度の中性化抑制効果を示すことが分かっている。

 なお、コンクリートの塩分が混入しなければ、中性化している部分の鉄筋のさびの発生はほとんどなく、コンクリートが中性化しても、外装仕上塗材で被覆して水、酸素を外部から遮断すれば、その後の鉄筋の腐食の進行はある程度抑制される。

 

(11)仕上塗材工法の特徴

 仕上塗材工法は、他の仕上げ工法(タイル張り、石張り、左官工法など)に比べて次のような特徴をもっている。

①作業性がよい。

②施工コストが安く、経済面で有利。

③構造物の位置、大小、形状を問わない。

④美装性機能が多種、多様である。

⑤保護機能として防水、防火、防熱、中性化阻止、アルカリ骨材反応の抑制など、多くの機能をもつ。

⑥塗替え工法により、建築物の維持、保護、意匠替えが経済的に行える。

 仕上塗材工法は、塗材と塗る技術の複合技術である。塗材の開発、改良により、さらに多くの機能性を発揮することが可能である。塗装材料の寿命は被塗物の寿命に比べてはるかに小さいが、繰り返し塗替えを行うことで、建物の耐久性維持が比較的容易に達成できる。

▲このページのトップに戻る